4月28日、日本の衛生陶器大手TOTOが2024年度(2024年4月1日~2025年3月31日)の決算を発表した。売上高は7245億円(前年比3.2%増)、営業利益は485億円(同13.4%増)と堅調な成長を見せた一方、親会社株主に帰属する純利益は122億円(同67.3%減)と大幅に減少した。特に注目すべきは、中国市場での大幅な業績悪化だ。売上高は669億円(同20.4%減)、営業利益は36億円の赤字に転落し、TOTOは中国での事業構造改革を加速させるため、北京と上海の2工場を閉鎖する決断を下した。今回は、TOTOの中国市場での苦境とその背景、そして今後の展望について探ってみよう。
TOTOの2024年度決算は、全体としては安定した成長を示した。売上高は7245億円に達し、特に日本国内の住宅事業部門は売上高4813億円(前年比1.73%増)を記録。営業利益は219億円とほぼ横ばいだったが、安定した需要に支えられた。海外市場では、アメリカが売上高705億円(同19.69%増)、営業利益52億円(同85.72%増)と大きく躍進。スマートトイレや衛生陶器、金具類の出荷拡大に加え、キッチン・バスルーム(K&B)製品やEC・小売チャネルの多店舗展開が成長を牽引した。アジア地域(中国を除く)も好調で、売上高502億円(同11.56%増)、営業利益82億円(同34.43%増)を達成。台湾やベトナム市場では二桁成長を記録した。半導体関連事業も売上高503億円(同37.81%増)、営業利益85.45%増と大きく伸びた。
しかし、中国市場はTOTOにとって大きな足かせとなった。売上高は669億円と前年比20.4%減少し、営業利益は36億円の赤字に転落。これは、TOTOが40年間にわたり海外成長の柱としてきた中国市場での初めての大幅な後退だ。決算報告の第5節では、中国市場の課題に特化した分析が掲載されており、TOTOの経営陣がこの問題を深刻に受け止めていることがうかがえる。

TOTOが中国市場で直面している課題は、複数の要因が絡み合った結果だ。まず、最大の背景は中国の不動産市場の長期低迷だ。中国では2020年以降、不動産バブル抑制策が強化され、デベロッパーの債務危機や住宅販売の停滞が続いている。不動産業界は衛生陶器やキッチン・バスルーム製品の主要な需要源であり、この低迷はTOTOの主力製品の販売に直撃した。2024年の中国のGDP成長率は5%を達成したが、不動産セクターの不振は消費者の購買意欲を冷やし、高級衛生陶器への需要を直撃した。
次に、消費の「ダウングレード」傾向が顕著だ。中国では中間層の拡大が続いているが、経済的不確実性から消費者が高価格帯の製品を避け、低価格帯や国産ブランドにシフトする動きが加速している。TOTOは高品質・高価格帯のブランドとして知られるが、現地メーカーの低価格攻勢や技術力向上により、価格競争で後れを取る場面が増えた。特に、中国ローカルブランドはデザインや機能面でTOTOに迫る製品を低コストで提供し、シェアを奪っている。
さらに、TOTO自身の対応の遅れも問題の一因だ。決算報告では、「市場の急激な変化に対し、TOTOの対応が遅れた」と自己批判的に分析している。中国市場は、デジタル化やECプラットフォームの普及により、消費者の購買行動が急速に変化している。TOTOは伝統的なオフライン販売網に依存してきたが、ECや新興チャネルへの対応が不十分だった。これにより、中級市場の拡大という機会を捉えきれず、競合他社に後塵を拝した。
こうした苦境を受け、TOTOは中国事業の抜本的な見直しに踏み切った。その最大の決断が、北京と上海にある2つの生産拠点の閉鎖だ。TOTOは中国に3つの衛生陶器生産工場を持ち、うち北京の東陶機器(北京)有限公司と上海の東陶華東有限公司が4月28日から生産を停止、今後閉鎖および会社清算手続きに入る。2拠点の従業員数は2025年4月1日時点で約2000人に上り、現在、従業員への補償交渉が進められている。
この閉鎖により、TOTOの中国での生産能力は約4割減少する。さらに、工場閉鎖に伴う特別損失として、2026年3月期に340億円の減損損失を計上する予定だ。これにより、短期的には財務負担が増すものの、TOTOは稼働率と生産性の向上を図り、長期的な収益改善を目指す。具体的には、残る1拠点(福建省の工場)に生産を集中させ、効率化を進める計画だ。また、製品ラインナップを見直し、中級市場向けのコスト競争力のあるモデルを強化する方針も示されている。
興味深いのは、TOTOが中国市場からの撤退を選ばなかった点だ。決算報告では、「今後も中国大陸での事業を継続し、安定した事業運営を目指す」と明記されている。これは、TOTOが中国市場の長期的な潜在力を依然として信じていることを示す。実際、中国の中間層は今後も拡大が見込まれ、衛生陶器やスマートトイレの需要は都市化の進展とともに回復する可能性がある。TOTOは今回の構造改革を通じて、市場変化に柔軟に対応できる体制を構築しようとしている。
中国市場の低迷は、TOTOのグローバル戦略にも影響を与えている。2024年11月、TOTOの清田社長は記者会見で、中国事業の全面見直しと、従来の年間5%成長目標の引き下げを発表した。今回の決算でも、中国市場の赤字が全体の純利益を67.3%押し下げたことが明らかになり、投資家の懸念が高まっている。一方で、TOTOは自社株買い(発行済み株式の4.7%、上限200億円)を発表し、株価の下支えを図る姿勢を見せた。
TOTOの今後の課題は、中国市場での競争力回復に加え、グローバル市場でのバランスの取り方だ。アメリカやアジア(台湾・ベトナム)市場の好調は、TOTOの成長を支える明るい材料だが、中国市場の規模と重要性は依然として大きい。加えて、TOTOはベトナムやタイに新たな生産拠点を構築しており、第一次貿易摩擦以降、ベトナムだけで5つの工場(衛生陶器4工場、蛇口1工場)を新設した。こうした動きは、中国依存からのリスク分散を図る戦略の一環だが、新興国市場での品質管理やブランド力の維持も新たな課題となる。
TOTOの中国市場での苦境は、不動産低迷や競争激化といった外部要因に加え、企業自身の対応の遅れが重なった結果だ。北京と上海の工場閉鎖は、TOTOが40年間築いてきた中国事業の縮小を意味するが、同時に新たなスタートラインでもある。構造改革を通じて、TOTOは生産効率の向上、市場ニーズへの迅速な対応、そして中級市場での競争力強化を目指す。
中国市場は、依然として世界最大の消費市場の一つだ。TOTOがこの危機を乗り越え、かつての「海外成長の柱」を取り戻せるかどうかは、今後の戦略実行力にかかっている。日本のモノづくり精神と、TOTOの技術力を武器に、中国市場の新たな可能性を切り開く日が来ることを期待したい。
(中国経済新聞)