欧米が中国製EVに対し包囲網 長城汽車は欧州本部を閉鎖 (その2)

2024/06/26 11:30

これら中国メーカーは、政府から手厚い補助金を得ているので、ヨーロッパでの売値は現地生産車よりずっと安く、現地のメーカーや雇用を脅かすものとなっている。

6月13日、中国商務省の何亜東報道官は記者会見で、「EUのやり方は世界貿易機関(WTO)のルール違反の恐れがあり、あからさまな保護貿易主義だ」と述べた。中国はWTOに提訴する権利を持っていて、すべての必要な措置を取り、中国企業の合法権益を確実に守るとのことである。

しかしこうした抗議の中でも、中国のEVを排除しようするというEUの決意は強い。

中国の長城汽車は、ヨーロッパにおけるEVへの逆風や中国車種に対する追加関税を前に、事業を見直し、今年8月にドイツのミュンヘンにある欧州本部を閉鎖すると発表した。ヨーロッパ支社に勤務する100人は、経営陣も含め全員を解雇するという。

長城汽車の欧州本部は、ヨーロッパ進出への足掛かりとして2021年11月に設立され、研究開発、販売、マネジメントなど重要な機能を担っていた。特に研究開発については、車両アセンブリや部品の開発、動力装置プラットフォームの開発やアセンブリ、自動運転、コネクテッドカーなどに携わってきた。

しかしわずか3年間で、ヨーロッパ進出は失敗したと言うほかなくなった。

長城汽車のヨーロッパ広報担当は、「欧州本部の閉鎖後もドイツやイギリスなど既存の市場で車の販売を続け、中型セダンEVの『Ora 07』を予定通りドイツとイギリスで発売する」と表明した。ただし現地の事業は中国の会社がリモートでマネジメントする。さらにスウェーデン、アイルランド、イスラエル、ブルガリアなど他のヨーロッパ各国は現地の販売店グループが管轄し、中国本社に報告する。ヨーロッパの市場研究機関Dataforceによると、長城汽車は今年1~4月、ヨーロッパでの販売台数は前年同期比147%増の1621台であった。

また、長城汽車の子会社で燃料電池を手掛ける蜂巢能源も、不安定な今の自動車市場を前に、ドイツのブランデンブルグでの電池工場建設計画を中止すると表明した。

長城汽車の欧州本部閉鎖は、中国のEVヨーロッパ進出に暗雲が立ち込めたことを物語る。

中国からヨーロッパへのEVの輸出は増えつつあるが、中国ブランドの車種は少ない。公開データによると、2023年の中国製EVの輸出台数は155万台で、うち40%がヨーロッパ向けであったが、その中で最も多いのは上海で生産されたアメリカのテスラ車であった。テスラは2023年に中国から34.4万台を輸出し、その大部分はヨーロッパ向けであった。なおヨーロッパでは中国メーカーの市場シェアが今年3月に初めて4%を超え、販売台数は合計5.74万台となっている。

今年4月には、ヨーロッパで輸入された車が数か所の港で大量に残され、その多くが中国製だとの報道があった。このために、いくつかの自動車メーカーが港で広大な敷地を借りており、いまだに買い手が現れないという。こうした事態について、ある中国メーカーのヨーロッパ事業責任者は「ヨーロッパでEVの需要が伸びていないこと、また中国メーカーの輸出が増えていることが主因」と証言している。

なお、ヨーロッパで自社の工場建設を予定している中国メーカーはほとんどなく、多くは貿易を通じて販売しており、ヨーロッパに販売チャネルのある会社は少ない。ヨーロッパ市場は障壁が高く、中国メーカーが市場を拡大するには現地で工場を構え、サプライチェーンを取り込まなくてはならないのである。

(終わり)

(中国経済新聞)