シェル、中国の電力市場から撤退

2024/05/12 14:30

イギリスの石油大手・シェルの中国法人は5月8日、2023年末から中国での発電、取引や販売など電力事業の撤退を始めていると表明した。電力事業に関する見直しを含め、世界のエネルギー市場における事業の転換を意味するものである。

ただこの中で、電気自動車(EV)への充電事業は対象外となっている。今回の発表では、「電力市場から撤退するが、引き続きパートナーや取引先とともに中国のエネルギー転換を支えていく」とも表明している。新たに最高経営責任者に就任したWael Sawan氏の「より収益性の高い事業に注力する」という方針に沿ったものである。

またシェルはこの日、シンガポールにある子会社のシェル・シンガポールが現地のエネルギーや化学プラントを売却するとも発表した。変わりゆくマーケット情勢や資本ルールの強化を目指す上での同社の方針転換を示すものである。

シェルは2019年、石油の生産量がピークに達するとの予想に基づいて電力事業の強化に乗り出し、世界最大の電力会社を目指すと表明した。2021年には再生可能エネルギー電力を改革の重点とする「Powering Progress」戦略を打ち出した。ところが2022年にウクライナ問題が発生したことで、世界的にエネルギーの安全性に関心が寄せられ、シェルも含めて従来型のエネルギー事業に改めて取り組む動きが強まり、脱炭素化に対し二の足を踏む傾向が出ている。

シェルの今回の決定は、中国の特別な環境も要因の一つでもある。中国の売電事業は各社が熾烈な競争を展開し、利益が薄くなっている。2015年の電力改革以降、市場規模は拡大していったが、売電会社が競争にあえいで経営困難に陥ってしまった。特に2021年は全国的な電力不足やエネルギー価格の上昇を受け、市場が一段とひっ迫した。

シェルはこのような中でも、中国から完全には撤退せず、EVの充電に一段と力を入れる方針をとった。2023年9月には、一般用急速充電器258台を備え、1日3300台以上に充電が可能な世界最大規模のEV充電ステーションを深センに開設した。目標としているゼロエミッションの実現や、EV市場の将来性を見越した取り組みである。

シェルはまた、世界的に不採算事業を分離する動きも進めている。2024年初めにはナイジェリアの陸上子会社を売却した上、シンガポール・シェルのエネルギーや化学プラントを全面譲渡するなど、世界規模でエネルギー事業の思い切った見直しや戦略転換を見せている。このような行動は社内の資源の改善のほか、外的な環境の変化に合わせたものでもあり、一段と競争力をつけ、採算の出る事業については足場を固めて拡大していくことが狙いである。

(中国経済新聞)