成功を収めた経営者が、公の場で自らの過ちを認めることは、それほど多くない。まして、世界から注目を集めるロボットメーカーの創業者であれば、語るべき成果はいくらでもある。しかし、中国の宇樹科技(ユニツリー)を率いる王興興氏が口にしたのは、自分の判断に対する反省だった。
「過去十数年で犯した最大の過ちは、AIを十分に信じきれなかったことだ」
10月12日、上海で開かれた第26回中国国際工業博覧会。開幕式での対談で、王氏はこう語った。四足歩行ロボットで世界的な存在感を示し、人型ロボットでも出荷台数を伸ばしてきた企業のトップによるこの発言は、今後の経営戦略を根本から見直す意思の表れとも受け取れる。
10年前からロボット開発事業を始まった
王氏がロボット開発を事業として始めて、今年で10年になる。その歩みをたどると、今回の発言の意味が見えてくる。宇樹科技の強みは、もともとロボットの動きを自在に制御する技術にあった。大学院の修士課程に在籍していた2013年には、低コストで高性能な四足歩行ロボットの開発構想を打ち出し、創業後はモーターや減速機、制御装置などの主要部品を自社で開発した。
ボストン・ダイナミクスの製品と比べて大幅に価格を抑えた四足歩行ロボットを市場に投入し、当時は参入企業の少なかった分野で地位を築いた。機体の性能を高めながら価格を引き下げ、研究機関や企業が導入しやすい製品を生み出したのである。動作制御の精度とコスト競争力が、同社の成長を支えてきた。
しかし、動きを制御する技術がどれほど優れていても、それだけで仕事を任せられるわけではない。人間の指示を理解し、周囲の状況を判断し、予想外の変化にも対応する必要がある。そうした能力を支えるのがAIである。
王氏は2009年、すでに小型の人型ロボットを自作していた。しかし、完成させた当時は、人型ロボットを事業として成り立たせる道筋が見えなかったという。人型ロボットへの関心も、機械をつくる技術もあった。ただ、その機械を実社会で役立つ存在に変えるほど、AIが進歩するとは確信できなかったのである。
AIへの信念がまだ足りなかった
今回の「最大の過ち」とは、こうした判断を指しているのだろう。技術者として目の前の難題に取り組む一方で、開発の前提そのものを変えるAIの進化を、十分に見通せていなかった。四足歩行ロボットで成功を収めた経営者だからこそ、自らの判断の限界を認める言葉には重みがある。
その認識を変えたのが、大規模言語モデルをはじめとするAI技術の進歩だった。言葉による指示を理解し、画像から周囲の状況を読み取る能力が向上し、人型ロボットの実用化にも新たな可能性が開かれた。王氏も、ロボット分野におけるAIの進歩によって、実現できることへの期待が再び広がったと振り返っている。
宇樹科技は2023年に人型ロボットの販売を始め、2024年には「G1」を9万9000元からという価格で市場に投入した。2025年には、人型ロボットの出荷台数が5500台を超えた。より多くの開発者や企業が、実機を使って活用方法を探れる環境を整えてきたのである。

王氏の見方を大きく変えたのは、AIモデルの進化の速さだ。博覧会では、世界のAI技術はほぼ1、2カ月ごとに大きく進歩しているとの認識を示した。そして、ロボットなどが周囲の環境を認識し、自ら判断して行動する「身体性AI」が、早ければ1、2年で大きな転換点を迎える可能性に言及した。
その見通しを支えているのが、自社での取り組みである。今年2月には、産業用途を想定したロボット向けの大規模AIモデルを発表し、自社工場で、ロボットに関節用モーターを自律的に組み立てさせる試験を始めた。ロボットが別のロボットの製造を担う試みである。
ただし、王氏は期待だけを語っているわけではない。工場での本格的な導入には、環境や作業条件の変化に対応する能力と、作業効率の面で課題が残ることも認めている。宇樹科技は2024年から自動車工場などで試験導入を進めているが、大規模な展開にはなお時間が必要だという。
工場での本格導入はまだ難しい
例えば、人間なら、部品の向きに応じて持ち方を変えられる。作業台に物が置かれていれば、それを避けて手を伸ばす。しかし、ロボットにとっては、こうした小さな変化も難題になる。ある条件の下で学んだ動作を、異なる環境でも応用できるようにしながら、作業速度や精度を高める必要がある。
工場では、生産ライン全体の速度に合わせ、安定した品質で作業を繰り返さなければならない。一方、接客や案内などのサービス分野には、用途によって、作業速度や対応方法に比較的余裕を持たせられる場面もある。実用化の進み方は、こうした現場ごとの条件によって異なるだろう。
今回の反省には、運動制御で築いた強みを、AI時代の競争にどう生かすかという課題も重なっている。機体を動かす技術に加え、AIモデル、学習用データ、計算能力の重要性が高まっているからだ。王氏は、即座の応答が必要な処理は機体側で行い、複雑な判断にはクラウドを活用するという考え方を示している。必要な機能を適切に組み合わせようとする姿勢に、今後の開発の方向が表れている。
王氏は、AIの可能性に対する確信が日々強まっていると語る一方、まだ多くの人がAIを十分に使いこなしていないとも指摘している。その言葉は、他者への呼びかけであると同時に、自分自身や社内の技術者に向けたものでもあるのだろう。
王氏はかつて、近道を求めず、地道な努力を重ねる姿勢を語っていた。ハードウエアの開発で基盤を築いた技術者が、今はAIに大きな期待を寄せている。もちろん、主要部品の自社開発や機体の処理能力、コスト管理、部品の調達・生産体制の重要性が薄れたわけではない。そうした土台の上に、現場で役立つ知能をどう組み込むかが、次の課題になっている。
2009年、自作した人型ロボットを前に、王氏は事業化への道を見いだせなかった。それから十数年を経て、自らAIの可能性を十分に信じていなかったと語るようになった。この反省の価値は、過去の判断を検証し、次の選択に生かそうとしている点にある。かつて過小評価していた技術が、会社の将来を左右する重要な要素になりつつある。その変化を認め、行動に移せるかどうかが、宇樹科技の次の成長を決めることになる。
(中国経済新聞)
