上海にあふれるキャラクターたち

2026/10/27 13:30

混雑する店内は、カラフルな陳列棚を熱心にのぞき見しながら往来する若者たちの熱気に溢れていた。ここは市中心部にあるデパート地下2階のキャラクターグッズ店。お洒落な店内は個性豊かなキャラクターたちが異彩を放っている。有名なアニメや映画のキャラは無論のこと、動植物をフィギュア化した摩訶不思議なキャラたちで埋め尽くされた場に身を置くと、まるで異世界に迷い込んだかのような錯覚に陥ってしまう。

 ここ最近の中国、特に上海でのキャラクタ―ブーム(中国では潮玩)には目を見張るものがある。専門用語でIP商品化市場と呼ばれるこの市場は10代から30代が主な消費者だ。彼らはアニメ、漫画、ゲームなどの二次元文化の主要な担い手であり、2024年時点で何と5億人以上に達するのだという。賑やかな店内外では購入の有無に関わらず、映えるスマホショットを切り取ろうと試みる若者たちも多く、SNSで発信される大量の情報がグッズ人気を更に勢いづける。

 中国玩具・乳幼児用品協会の「2025年中国IPライセンス産業発展白書」によれば、IP商品の年間小売額とロイヤリティの総額が2018年から2024年まで7年連続成長を遂げたという。主役のトレンドトーイ(潮玩)がその成長を牽引し続ける。中国全土のライセンサーは644社で、ライセンス事業を展開中のIP総数は2758。小売総額は約1550億元(約3兆6600億円)で、すでに3兆円弱の日本市場を凌駕している。中でも業界トップを走るポップマートはブラインドボックス(開けるまで中身が分からない箱)を主力商品として現在、市場の20%以上を占めるとされる。

 商品を見れば、主に日米のキャラクターが目立つが、その一方で中国独自のローカルキャラの存在感も見逃せない。一時期大人気を博したラブブは元々は香港生まれのクリエイター龍家昇が描いた『精霊天団』から生まれたキャラを2015年に彼自らがTHE MONSTERSとして展開したものだ。その後、2019年にポップマートと独占ライセンス契約し、ブラインドボックスという奇抜な販売手法で世界中で大ヒットしたのは周知の通りである。

 ちなみに私が上海に来た1999年当初は米日の人気キャラクターばかりが目立っていた。ディズニー映画のミッキー、ドナルド、スヌーピー、日本アニメのドラえもん、ウルトラマン、ちびまる子、クレヨンしんちゃんなどのグッズをよく目にしたものだ。息子の誕生日に買ったウルトラマンのフィギュアは今も自宅に飾ってある。

 ただ、2000年代初頭のこうしたIP関連市場は黎明期で上海、北京、広州などの大都市に集中していた。上海では2002年に上海世紀華創(後、上海新創華文化に継承)という会社が設立され、主に日本アニメの関連商品を取り扱っていた。無論、中国ローカルキャラは上海美影廠(中国アニメの総本山)が制作した『大鬧天宮』の孫悟空や幼児向けの国産アニメ『喜羊羊与灰太狼』シリーズから生まれた喜羊羊や灰太狼以外に目立ったものは生まれなかった。

 風向きが変わったのは2001年のWTO加盟後。知財保護の法整備が急速に進むと同時に、中国側の業者も海外IPの版権を取って合法的にキャラクター商品を製造販売する仕組みが定着していく。更に2008年の北京オリンピックの年には『国家知識産権戦略綱要』が定まり、夏の北京オリンピックキャラで「幸運の子供たち」を意味する福娃(フーワー)も海外販売されるようになる。ポップマートが生まれたのもちょうどこの年だ。

 こうした中国のキャラクターグッズ人気については、既に様々な社会学的批評も多い。若者世代の経済的苦悩、仕事や結婚へのストレス、将来への漠然とした不安、ミクロ社会における新たなアイデンティティーへの渇望などがその背景にあるとしばしば指摘されている。だが、そのわりに明るい店内を闊歩する彼らの表情は底抜けに明るく、キャラクターと対面する瞳はキラキラと輝いているように見える。

 何よりも、皆が同一キャラに没入するわけではなく、一人一人が自分に最適なキャラを選択している点が興味深い。家族や地域社会、学校や会社で集団行動が当たり前になりがちな彼らの規範とはちょっとだけずれながら、個々人の意志と価値観による「私の選択」を楽しむ姿がそこにはある。その意味で、上海にあふれるキャラクターたちは彼ら若者たちの個性的で多様なライフスタイルの誕生と成熟を如実に物語るものとはいえないだろうか。

(文・ 松村浩二)

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【筆者】松村浩二、福岡県出身、大阪大学大学院で思想史を学ぶ。上海在住24年目を迎える日本人お婿さん。

(中国経済新聞)