北京市朝陽区は、外国人が暮らし、働き、事業を展開するうえで、中国国内でも有数の国際化が進んだ地域である。区内には北京市の外国人常住人口の約半数が集まり、国際機関や商工会議所の約80%、多国籍企業の地域統括拠点の約70%が集中している。
こうした国際的な資源の豊富さを背景に、朝陽区は「中国で最も対外交流に強い区」とも称される。しかし、外国人が多く集まることと、外国人起業家が円滑に事業を立ち上げられることは、必ずしも同じではない。
朝陽区人材工作局の陳冰副局長によると、外国人起業家が直面する課題は具体的だ。中国の政策や支援制度を理解できない、資金調達の方法が分からない、業界内の人脈や取引先を見つけられない――。地域に豊富な資源があっても、それらにアクセスする方法が分からなければ、十分に活用することは難しい。
そこで朝陽区は、外国人材が持つ国際的な人脈や専門性を、実際の起業支援につなげる取り組みを進めてきた。2021年には外国人留学生を対象とした交流活動を開始し、起業に関心を持つ外国人材とのつながりを深めた。その過程で浮かび上がった課題を踏まえ、2026年4月、北京市で初となる外国人材向けの起業支援施設を開設した。

施設の初期面積は5,400平方メートル。最大の特徴は、「外国人が外国人を支援する」という運営方式にある。
「外国人が外国人を支援する」――起業家の立場に立った支援
外国人起業家にとって、行政手続きや支援制度の壁は、単なる言葉の問題にとどまらない。制度の仕組みや商習慣、資金調達の進め方、現地での人脈づくりなど、中国で事業を始めるために理解すべきことは幅広い。
朝陽区の起業支援施設では、外国人の立場や事情、ニーズを理解する外国人スタッフを含む起業支援チームを配置し、起業家と必要な支援をつなぐ体制を整える。
支援の柱は、政策、起業家育成、事業用スペース、資金調達、事業機会、生活支援の「六つを一体化した支援体制」だ。制度の紹介にとどまらず、事業の立ち上げから成長、現地生活への適応までを一つの仕組みに組み込む。
陳副局長は、この仕組みについて、朝陽区が持つ国際的な資源の強みを生かしながら、外国人起業家が実際に直面する課題の解決につなげるものだと説明する。
重要なのは、支援制度が存在するだけでなく、必要な人がその内容を理解し、実際に利用できることである。外国人の立場を理解する人材が窓口となることで、分散していた情報や支援資源を、起業家が利用しやすい形にまとめる狙いがある。

北京の中心業務地区に隣接する立地で、投資・行政手続き・市場開拓を後押し
起業支援施設が西大望路沿いの北京中心業務地区(CBD)に隣接する場所に設けられたのも、実務上の利便性を重視したためだ。
第一の利点は、事業に必要な資源へのアクセスである。投資機関や取引先との距離が近く、外国人起業家が事業の協力相手を探したり、資金調達の機会を得たりしやすい。
第二は、行政サービスへのアクセスだ。近隣には国際人材向けのワンストップ行政サービスセンターがあり、就労許可や居留許可などの手続きを進めることができる。同センターは計70項目のサービスを提供し、その内訳は直接受け付ける手続きが35項目、行政サービスに関する相談が35項目となっている。
就労許可と居留許可については、窓口を一本化し、二つの許可を同時に申請できる仕組みを導入した。手続きにかかる期間は17営業日から7営業日へと短縮された。
中国に来たばかりの外国人起業家にとって、こうした時間の短縮は事業準備を進めるうえで大きな意味を持つ。陳副局長が強調するように、手続きのために何度も移動する負担を減らすことは、利用者が実感しやすい利便性の一つだ。
第三は、事業を実際の市場につなげる機会である。施設が立地する地域は、国の認定を受けた文化・創意産業の拠点でもあり、メディア、デジタルコンテンツ、インターネットなどの企業が集積している。新興企業は、こうした企業とのつながりを通じて販売経路を開拓し、製品やサービスの実証試験や事業化に向けた検証を進めやすい。
さらに、施設内には展示スペース、事業計画の発表会場、共同会議室などを整備。企業の成長段階や用途に応じて利用できる空間を用意している。
政策から住居まで、起業を支える切れ目のない支援
朝陽区の取り組みは、起業支援施設の整備だけではない。政策、育成、資金調達、事業機会、生活環境を連動させ、外国人材が中国で活動を始めてから成長するまでを支える仕組みづくりを進めている。
政策面では、「朝陽青創15条」と呼ばれる若手人材・起業支援策を展開。「守護」「安居」「托挙」の三つの取り組みを軸に、起業支援、人材誘致、区独自の支援策、事業機会の提供などを幅広くカバーする。
人材育成では、「創業啓航計画」を実施している。在中国の留学生を対象に、起業に関する研修、指導者との引き合わせ、事業計画の発表機会などを提供する。優れた事業計画には、無料の作業スペース、計算資源の利用補助、研究開発費の補助、賃料補助などを組み合わせた個別支援策を用意する。
また、国際的な起業家を発掘する仕組みとして、2013年に始まった地域の起業コンテスト「ITEC」も活用している。陳副局長によると、これまでに141の国・地域から8万人を超える起業家が参加した。2026年には海外からの応募事業が全体のほぼ半数を占めるまでになったという。
コンテストで有望な事業を選び、朝陽区への拠点設置につなげ、さらに継続的な育成支援を行う。こうした「コンテストによる選抜、施設への誘致、継続的な支援」という流れによって、海外のアイデアを地域の産業発展へと結びつける。
生活面では、望京国際人材住宅が重要な役割を担う。外国人を含む国際人材のニーズを考慮して新たに整備された住宅施設で、1,270戸、総建築面積約18万4,000平方メートルの規模を持つ。
住居の確保から行政手続き、資金調達、事業の実証までを支援対象に含めることで、起業家が生活上の不安に過度な時間を費やさず、事業に集中できる環境を整えようとしている。
海外の技術と中国企業をつなぐ、双方向の国際交流拠点へ
開設から1年未満の起業支援施設には、すでに20を超える国から若手の科学技術分野の人材が集まり、先端技術分野を中心に事業が展開されている。
陳副局長は、この施設を北京の革新的な事業環境を世界に示す拠点の一つと位置づける。催しを開催して人を集めるだけではなく、実際の政策支援と専用スペースを備え、外国人材の新しい技術や事業の創出を、立ち上げから成長まで継続的に支援することに意義があるという。
一方、朝陽区が目指しているのは、海外の企業や事業を中国に呼び込むことだけではない。
外国人材が持つ海外市場への理解、人脈、専門知識を生かし、中国企業が海外の資源や事業の協力相手とつながり、国際市場へ進出することも目標としている。海外の優れた技術や事業を中国に導入する流れと、中国企業が海外へ展開する流れを、同じ拠点を通じて生み出そうという考え方だ。

これは、外国人材を単なる誘致対象として捉えるのではなく、地域の産業と世界を結ぶ協力者として位置づける試みでもある。
「来れば、事業を前に進められる」環境をどうつくるか
2021年の外国人留学生の交流活動から、北京市初の外国人材向け起業支援施設の開設、そして「外国人が外国人を支援する」運営方式へ。朝陽区の取り組みは、地域に蓄積された国際資源を、外国人起業家が実際に利用できるサービスへと転換する過程といえる。
外国人材の誘致では、国際的な企業や機関が集まること自体が強みになる。しかし、起業家が必要とするのは、それだけではない。制度を理解し、適切な相談先を見つけ、資金や取引先を確保し、生活基盤を整えながら、事業を一歩ずつ前に進められる環境だ。
朝陽区の起業支援施設は、立地、行政サービス、人材育成、資金支援、事業機会、住居支援を一つの流れにまとめることで、その実現を目指している。
施設の成否を左右するのは、催しの盛況ぶりだけではない。中国に到着したばかりの外国人起業家が、できるだけ短い時間で「次に何をすればよいのか」を理解し、具体的な行動に移せるかどうかだ。
「中国で最も対外交流に強い区」として知られる朝陽区は、国際化という既存の強みを、実際に事業を動かせる環境へと変えようとしている。その取り組みは、外国人材の誘致と育成に加え、中国企業と海外市場をつなぐ新たな国際的な技術革新の拠点モデルとなるか、今後が注目される。
(中国経済新聞
