中国観光が新時代へ 「見る旅」から「体験・消費する旅」へ、AIと地方観光が成長をけん引

2026/10/19 12:30

2026年10月18日、第13回中国観光産業発展年会が湖北省(こほくしょう)十堰市(じゅうえんし)の武当山(ぶとうさん)観光経済特区で開催された。文化・観光部産業発展司の繆沐陽(ミャオ・ムーヤン)司長は開幕式のあいさつで、2026年上半期の国内旅行者数が延べ34億6,300万人、旅行消費額が3兆2,000億元に達し、いずれも過去最高を記録したと明らかにした。

繆氏は、注目すべき点は単なる数値の増加ではなく、観光産業の構造変化にあると指摘。「旅行する人」の構成、「訪れる場所」、「旅のスタイル」、「消費の方向性」がそれぞれ変化していると述べた。

同年会で発表された『2026年中国観光産業影響力報告』は、現在の観光・文化産業をめぐる8つの注目動向を整理し、中国国内の観光市場で進む構造的な変革を分析している。

中央文化・観光管理幹部学院の馬峰(マー・フォン)院長は、消費が中国経済成長の最大のけん引役となるなか、従来の資源依存型・要素投入型の発展モデルには限界があると指摘。今後は「投資・建設重視」から「消費成果重視」へと転換し、科学技術イノベーションと文化クリエーティブの両輪によって、観光産業の新たな成長エンジンを育てる必要があると強調した。

1.夜間観光や県域旅行、新たな消費モデルが台頭

中国では、旅行者のニーズが従来の名所観光から、質の高い体験や没入型のレジャーへと移行している。こうした変化を背景に、個性化・テーマ化された観光商品や、新たな消費シーンが急速に広がっている。観光産業も、集客数の拡大を追う段階から、消費の質と収益性を高める段階へと移りつつある。

報告書によると、夜間観光消費は安定した成長を続け、都市消費の重要な成長分野となっている。2026年第1~第3四半期には、全国の国家級夜間文化・観光消費集積区における夜間来訪者数が延べ26億7,800万人に達し、前年同期比3.35%増となった。

各地では、都市商業地区や歴史街区、観光施設などを活用し、伝統文化を現代的にアレンジした市場、夜間公演、光と映像のショー、没入型ナイトツアーなどを展開。滞在時間の延長と消費機会の拡大を図り、飲食、宿泊、小売、文化クリエーティブ商品などの関連産業にも波及効果をもたらしている。

県域観光も、農村振興を支える新たな成長分野として存在感を高めている。2026年上半期の県域における域外消費は前年同期比14.1%増加し、県域観光関連の検索人気の伸びは旅行関連カテゴリー全体の伸びの2.8倍に達した。国慶節(こっけいせつ)の大型連休期間には、「県へ旅行する」を意味する「奔県遊(ベンシエンヨウ)」の検索人気が前月比238%上昇した。

県域観光は、単なる名所巡りから、地域固有の文化や暮らしに触れる体験型旅行へと進化している。各地では、地元の自然や歴史、食文化などを生かした商品開発が進んでいる。

2.スポーツ・公演と観光の融合、「チケット経済」が拡大

文化、スポーツ、商業、観光の融合も鮮明になっている。大規模な公演やスポーツイベントは、都市に人を呼び込み、消費を活性化させる重要な手段となった。

2026年上半期、中国では観客5,000人以上の大規模有料公演が1,300回開催され、興行収入は171億1,000万元に達した。開催回数は前年同期比13.06%増、興行収入は同17.70%増となり、ライブ・エンターテインメント市場の回復が続いている。

また、江蘇省(こうそしょう)の「蘇超(そちょう)」、湖北省(こほくしょう)の「楚超(そちょう)」、農村部のバスケットボール大会「村BA(そんビーエー)」など、地域密着型スポーツイベントも人気を集めている。試合観戦をきっかけに、飲食、宿泊、観光施設への来訪を促し、地域経済全体の活性化につなげる取り組みが広がっている。

こうした動きのなかで注目されるのが、「チケット経済」だ。公演やスポーツイベント、観光施設のチケットを、単なる入場券ではなく、飲食割引、観光施設の無料入場、買い物特典などと連動する消費促進ツールとして活用する。

チケットを起点に複数のサービスを組み合わせることで、旅行者の追加消費を促し、滞在時間と地域内消費の拡大を目指す。

このほか、農村観光、レッドツーリズム(革命史跡などを巡る旅行)、教育・研修旅行といった分野も普及が進む。地域の遊休資源を活用した小規模で特色ある観光プロジェクトは、農村民宿や農産物、体験型サービスの需要を生み出している。

クルーズ観光でも、母港の関連施設整備や商品開発が進展しており、目的地を設けない洋上クルーズや船内での滞在を楽しむレジャー商品など、高付加価値型の需要に対応する動きが広がっている。

北京第二外国語学院の中国文化・観光産業研究院で常務副院長を務める呉麗雲(ウー・リーユン)氏は、今後の観光産業について、地方・県域市場の成長、身体性を伴う体験と人工知能(AI)の融合、異業種連携による新たな消費シーンの創出、そして深い体験を重視する旅行スタイルが重要になるとの見方を示した。

3.インバウンドは拡大する一方、消費単価と受け入れ態勢に課題

中国へのインバウンド観光は、ビザ免除措置や入国手続きの利便化を背景に拡大している。

2026年上半期の外国人入国者数は延べ2,291万4,000人で、前年同期比20.4%増となった。このうちビザ免除による入国者が約8割を占め、人数は前年同期比30.6%増加した。また、インバウンド観光に伴う旅行サービス輸出額は2,292億元となり、同31.1%増を記録した。

繆沐陽氏は、外国人旅行者の行動が従来の定番観光ルートや名所巡りにとどまらず、街の路地や工場を訪れ、日常生活の雰囲気や先端技術に触れ、中国式の暮らしを体験する方向へ広がっていると説明。「中国旅行」や「中国での買い物」が海外のSNSで注目されるなか、インバウンド観光は「中国を観光する」段階から「中国を体験する」段階へ移りつつある。

訪問者の出身国も多様化している。韓国、ロシア、東南アジア諸国に加え、欧米各国からの旅行者も主要な市場となっている。二連浩特(エレンホト)、大同(だいどう)、林芝(ニンティ)、アルタイ、鄂爾多斯(オルドス)など、中西部や国境地域の都市でも外国人旅行者数が3倍以上に増加した。

湖北省の武当山では、世界各地に57カ所の武術普及センターを設置し、会員数は60万人を超える。毎年1万人以上の外国人が武術や養生文化を学ぶために訪れ、関連コンテンツのインターネット上での累計リーチは50億回を突破したという。

一方、インバウンド市場には、旅行者数の拡大が十分な消費額につながっていないという構造的な問題が残る。

世界観光連盟(WTA)の許澎(シュー・ポン)副主席によると、中国のインバウンド旅行者数は延べ1億5,450万人に達しているものの、旅行者1人当たりの消費額は357.3米ドルにとどまる。旅行者を呼び込むことには成功しているが、長く滞在してもらい、より多く消費してもらうことが課題となっている。

特に、世界のインバウンド観光で最大の消費分野である買い物について、中国本土を訪れる外国人宿泊旅行者の消費に占める購入支出の割合は19%にとどまる。世界平均の33%、香港の36.3%を大きく下回っている。

国産ブランドの商品や無形文化遺産を活用したクリエーティブ商品など、競争力のある資源を十分に消費へ結びつけられていない。商品が画一的であることや、文化的背景の説明が不足していることも、深い体験や高付加価値消費を妨げる要因となっている。

受け入れ態勢にも課題がある。全国約66万人の有資格ガイドのうち、外国語ガイドは8.4%にすぎず、特に少数言語への対応が不足している。QRコードを使った注文や国内向けミニプログラム、国内での決済サービス登録なども、海外旅行者にとって障壁となる場合がある。

さらに、中国と米国、中国と欧州を結ぶ長距離航空路線の回復も十分ではない。近距離市場の回復が先行する一方、遠距離市場の回復が遅れるという地域差が生じている。

許氏は、インバウンド観光の質を高めるため、次の5つの施策を提言した。

評価基準の見直し: 入国者数だけでなく、1人当たり消費額、滞在日数、宿泊率、再訪率、満足度を重視する。

買い物消費の促進: 中国ブランドや文化クリエーティブ商品の国際化、免税店の拡充、即時還付制度の普及、外国人に利用しやすい商業地区の整備を進める。

旅行サービスの国際化: 海外発行カードの決済対応を拡大し、多言語人材を育成するとともに、外国人旅行者向けの総合サービス窓口を整備する。

航空輸送力の改善: 長距離市場の路線不足を解消し、インバウンド向けの航空ネットワークを充実させる。

文化発信の高度化: 国・地域ごとのニーズに合わせて情報発信を行い、文化的な理解の隔たりを縮める。

4.AIとデジタル文化コンテンツが観光産業の変革を後押し

中国は2030年までに、国内旅行者数を2025年の延べ65億2,200万人から83億人へ、国内旅行消費額を6兆3,000億元から7兆7,000億元へと引き上げる目標を掲げている。今後の成長余地は大きい一方、従来型の観光開発には限界も見え始めている。

馬峰院長は、中国の観光産業が抱える従来型の課題として、資源への過度な依存、観光商品の同質化、季節変動の大きさを挙げた。

自然景観や文化財に依存するだけでは、地域独自の競争力を確立しにくい。古鎮や歴史街区、民宿などの類似施設が各地で増え、価格競争に陥るケースもある。また、繁忙期には観光客が集中する一方、閑散期には施設が十分に活用されず、雇用も不安定になりやすい。

こうした課題を克服する手段として期待されているのが、デジタル技術と文化クリエーティブの融合だ。

繆沐陽氏によると、2026年にはビッグデータやAIなどの技術を文化・観光分野へ導入する取り組みが進み、政府は「AI+文化・観光」の第1弾となる14件の応用実証事業を公表した。また、国家発展改革委員会と連携し、観光分野における重要な応用シーンの構築も進めている。

観光施設では、没入型体験が標準的なサービスとなりつつある。AIガイド、デジタルヒューマンによる案内、スマート翻訳ツールなどは、旅行者ごとの行程計画やリアルタイムの問い合わせに対応する。センサーを活用した状況把握システムやビッグデータによる運営管理も、観光地の混雑緩和や運営効率の改善に役立っている。

具体例として挙げられるのが、武当山観光経済特区の「デジタル武当」プロジェクトだ。同特区は武漢大学の李徳仁(リー・ドーレン)院士の研究チームと連携し、高精度の実景3次元技術を用いて、地域全体の観光資源をデジタルデータ化している。

旅行者はVR機器を装着することで、武当山の金頂(きんちょう)を仮想空間で飛び越えるような体験ができる。また、仮想ガイドの「玄淼淼(シュエン・ミャオミャオ)」と「武焱焱(ウー・イエンイエン)」に案内されながら、武当山の景観を没入型コンテンツとして楽しめる。

馬院長は今後の方向性として、観光分野の重要技術の開発、文化資源のデジタル保存、スマート観光地やデジタル博物館の整備を推進するとともに、中国の優れた伝統文化、革命文化、地域文化を掘り起こし、独自の観光ブランドやIPを育成する必要があると指摘した。没入型公演やデジタル文化商品などの開発に向け、テクノロジー企業とクリエーティブチームの参画を促すことも重要だとしている。

馬氏は、「科学技術イノベーションがエンジンとなり、文化クリエーティブが中核となる。技術は体験の可能性を広げ、文化は商品に魅力と温かみを与える。両者がそろって初めて、観光産業の革新的な発展を支える新たなエコシステムを構築できる」と強調した。

5.観光産業の成長軸は「集客」から「体験と消費の質」へ

今回の年会と報告書が示したのは、中国の観光産業が量的拡大だけを追求する段階から、体験価値や消費効果を重視する段階へ移行しつつあるという現状だ。

夜間観光や県域旅行、スポーツ・公演との連携、チケットを活用した消費促進は、旅行者の滞在時間を延ばし、地域内の幅広い産業に経済効果を波及させる取り組みとして注目される。

インバウンド観光では、旅行者数の増加を実際の消費拡大につなげるため、商品開発、多言語対応、決済環境、航空輸送力などの改善が求められる。同時に、AIやデジタル技術を活用しながら、地域固有の文化を生かした独自性の高い観光体験を創出することも重要となる。

今後の中国観光産業にとって鍵となるのは、観光資源や施設を増やすことだけではない。技術と文化を組み合わせ、旅行者が「訪れたい」「長く滞在したい」「もっと消費したい」と感じる体験をいかに生み出せるかが、持続的な成長を左右することになりそうだ。

(中国経済新聞)