2026年9月15日、中国の自動車業界で注目すべき動きがあった。中国の自動車メーカー、賽力斯(SERES)と華為(ファーウェイ)は相次いで声明を発表し、「問界(AITO)」をめぐる協業体制を見直すと明らかにした。
今後、問界の製品企画やデザイン、ブランドマーケティング、販売網、アフターサービスなどは賽力斯が主導し、華為は技術面を中心に支援する。
問界は引き続き「鴻蒙智行(Harmony Intelligent Mobility Alliance)」の一員にとどまる。一方、尊界、享界、智界、尚界の4ブランドについては、これまで通り華為が製品開発から販売まで幅広く主導する体制が維持される。
これは単なる役割分担の変更ではない。
約5年半にわたって続いてきた、華為と自動車メーカーの協業モデルが一つの転換点を迎えたことを示している。
そして、この動きによって改めて浮上したのが、次の問いだ。
「華為は、今も自動車メーカーにとって欠かせない存在なのか」
この問いを考えるには、まず賽力斯と華為の関係を振り返る必要がある。賽力斯は、華為が自動車メーカーと展開してきた協業モデルの中でも、最初に「智選車モデル」を本格的に採用したメーカーだ。
2021年4月、賽力斯と華為が共同開発した「SF5」が発売され、自動車が初めて華為の販売チャネルに乗った。同年12月には「AITO(問界)」ブランドが発表され、その後、問界M5、M7、M9が相次いで市場に投入された。

そして2026年1月、問界は累計100万台目となる車両がラインオフした。ブランド誕生からわずか約46カ月での達成だった。
かつて中国自動車市場では目立った存在ではなかった賽力斯は、華為との協業によって急速に成長し、新エネルギー車市場の有力メーカーへと躍進した。
では、なぜ華為はここまで自動車事業に深く関わる必要があったのか。
なぜ華為は「部品サプライヤー」では満足できなかったのか。その理由を比較的明確に説明しているのが、華為の余承東氏が2023年4月1日、中国電気自動車百人会フォーラムで行った講演だ。
当初、華為は自動車業界で、ボッシュやコンチネンタルのような部品サプライヤーになることを想定していた。しかし、華為が提供するのはブレーキやステアリングのような標準化された部品ではない。ソフトウエア、アルゴリズム、クラウド、半導体など、自動車の「スマート化」を担う技術が中心だからだ。
こうした技術は、部品を納入して終わりというわけにはいかない。車両との統合を進め、OTAによってソフトウエアを更新し、機能を継続的に改善していく必要がある。そのため華為は、自動車メーカーの製品開発に深く入り込む必要があった。そこから生まれたのが「Huawei Inside(HI)」であり、その後の「智選車モデル」だった。
ただし、ここにはもう一つ重要な事情がある。優れた技術を提供するだけでは、車は売れない。余承東氏は、華為の技術が優れているだけでは最終的な製品の商業的成功を保証できないと説明している。巨額の研究開発投資を回収するには、華為の技術を搭載した車を大量に販売し、事業として成立させる必要があるからだ。
だからこそ華為は、単なる技術サプライヤーにとどまらず、製品企画からマーケティング、販売まで幅広く関与するようになった。これが現在の「鴻蒙智行」につながっている。
この協業モデルが強かった理由は、華為が単なる技術サプライヤーではなかったことにある。高性能な運転支援システムやスマートコックピットといった技術に加え、華為が持つ巨大な消費者向け販売網やブランド力、マーケティング力も利用できた。
自動車メーカーからすれば、「華為の技術を使う」だけでなく、「華為の販売力を借りて車を売る」ことができたわけだ。この組み合わせが、問界の急成長を後押しした。
しかし2026年に入り、このモデルを取り巻く環境は変わり始めた。
華為の技術が「特別なもの」ではなくなった。大きな変化の一つが、鴻蒙智行の拡大だ。当初は問界を中心とした一つのブランドだったが、現在では問界、智界、享界、尊界、尚界の5ブランドにまで広がっている。
さらに2025年9月以降、広汽と華為乾崑による「啓境」、東風と華為乾崑による「奕境」など、新たな協業ブランドも登場した。つまり、華為の技術はもはや一部の自動車メーカーだけが利用できる「特別な技術」ではなくなりつつある。
ここから、自動車メーカー側の新たな問題が生まれる。「華為の技術を採用すれば、それだけで自社ブランドを差別化できるのか」という問題だ。
もちろん、華為との協業を積極的に評価する自動車メーカーも多い。岚図(VOYAH)の邵明峰CBOは、現在の中国の道路環境や複雑な交通状況、そして現時点における運転支援技術の水準を踏まえると、華為乾崑の運転支援システムには依然として優位性があるとの見方を示している。「今、優れたスマート運転体験を求めるのであれば、華為のソリューションは外せない」というのが、その立場だ。また、啓境の劉嘉銘CEOも、華為乾崑との協業を続ける方針を明確にしている。
電動化が進んだ現在、自動車の競争軸はモーターやバッテリーだけではない。運転支援、スマートコックピット、車両制御といったソフトウエア領域の重要性が急速に高まっている。こうした分野で華為が高い技術力を持つ以上、協業するメリットは依然として大きい。

ただし、すべてのメーカーが同じ考え方をしているわけではない。
阿維塔(AVATR)は、華為乾崑の高度な運転支援技術を引き続き採用しながらも、「現在の最適解」と「将来にわたって同じ相手と組み続けること」は別の問題だと考えている。阿維塔科技の雍軍副社長は、華為との協業は、その技術力を評価した上でのものだが、現在の最適な選択が将来も変わらないとは限らないと説明した。
その背景にあるのが、ブランドの独自性だ。
華為の技術を多くのブランドが利用できるようになればなるほど、同じ技術を使うブランド同士の違いをどこで打ち出すのかが重要になる。
阿維塔側が望んでいるのは、華為が共通の技術プラットフォームやサービスを提供し、その上で各ブランドが独自性を発揮するという関係だ。
長安汽車も同様の考え方を示している。同社は主力ブランドと啓源について、自社開発の運転支援システムのみを搭載する方針を明確にした。長安汽車の朱華栄董事長も、「中核技術は自分たちの手で握る必要がある」と強調している。
もっとも、華為を使うか、自社開発するかという二者択一でもない。東風と華為乾崑による奕境の曾清林ブランド総経理が示した考え方は、その中間に位置する。華為と協力して先端的なソフトウエアやハードウエアを取り入れながらも、ブランド自身の技術力を高めることが重要だという考え方だ。
言い換えれば、「強い相手から学び、強い技術を借りる。しかし、自分たち自身も強くならなければならない」ということになる。これは現在の中国自動車業界において、現実的な戦略の一つになりつつある。
華為も「他社にはない7つの強み」をアピール
こうした自動車メーカー側の動きに対して、華為も自社の独自性を改めて強調している。2026年8月の鴻蒙智行発表会で、余承東氏は、鴻蒙智行には「途霊プラットフォーム」「巨鯨バッテリー」「専用HarmonyOS車載システム」「華為智擎」「星河通信」「ALPS健康コックピット」という6つの専用技術があると説明した。
さらに、華為の端末部門が持つ消費者向けの強みを加えた「7つの能力」によって、他の協業モデルでは得られない価値を提供できると強調した。
つまり華為にとって競争力の源泉は、ADASなど個別の技術だけではない。技術、ソフトウエア、通信、販売、ブランド、そして消費者との接点を一体化したエコシステムそのものが強みだというわけだ。
ここまで双方の主張を並べると、「華為は必須なのか」という問いには、実は二つの意味があることが分かる。
一つ目は、「今、競争力のある高度な運転支援システムを実現したいなら、華為は有力な選択肢なのか」という問いだ。
これについては、華為乾崑の運転支援システムが多くの自動車メーカーに採用され、鴻蒙智行の累計納車台数も150万台を突破していることから、少なくとも現在の中国市場で大きな存在感を持っていることは間違いない。
しかし、もう一つの問いは異なる。「自動車メーカーは、自社製品の中核を一つの外部企業に長期的に依存してよいのか」という問題である。
こちらについては、各社の戦略によって答えが変わる。
海外市場への展開、規制や安全基準への対応、コスト、ブランドの独自性、そして将来の技術進化を考えれば、自社の開発能力を維持しながら、複数の技術パートナーを確保しておく必要性も高まっている。
今回の問界をめぐる主導権移管は、こうした変化を象徴している。約5年半前、華為は自動車のスマート化技術を大規模に市場へ投入するため、従来の部品サプライヤーとは異なる、極めて深い協業モデルを作り上げた。賽力斯はその最初の重要なパートナーとなり、問界はその成功例となった。

しかし5年半後、問界の製品企画、設計、マーケティング、販売、サービスは賽力斯が再び主導することになった。華為は「すべてを主導する存在」から、「技術を中心に支援する存在」へと役割を変える。
これは、必ずしも華為の技術力が低下したことを意味するものではない。むしろ、華為の技術が多くの自動車メーカーに広がり、以前よりも「利用できる技術」になったからこそ、自動車メーカー側が次の段階を考えるようになったと見ることができる。
「華為を使うか、使わないか」ではない。これから問われるのは、「華為の強みをどこまで取り入れ、その上に自社独自の製品力とブランド力をどう築くのか」ということだろう。
5年半前、華為にとって重要だったのは、優れたスマート化技術をいかに大量の車両へ搭載するかだった。5年半後の今、問われているのは、その技術を利用する自動車メーカーが、そこからどれだけ独自の競争力を築けるかである。
華為の技術は依然として、中国のスマートEV市場における重要な選択肢の一つだ。しかし、「必須」という言葉の意味は変わり始めている。最終的にその答えを決めるのは、華為でも市場全体でもない。それぞれの自動車メーカーが、どのような製品を作り、どのようなブランドを築き、どこまで自前の技術力を持つのか。その戦略によって、華為との適切な距離も決まっていくことになる。
(中国経済新聞)
