8月16日、北京の五洲大酒店3階にある客室フロアで、人型ロボットがスーツケースを運び、客室の備品を補充し、ベッドを整える――。一見すると近未来の光景だが、これは第2回世界人型ロボット運動会の「ホテルシーン・ゲストサービス部門」で行われた競技の一幕だ。
今回の大会では初めて、実際に営業しているホテルを競技会場として使用。人型ロボットの移動・重量物運搬、バランス制御、物体の把持・配置、周囲の認識やナビゲーションなど、実用化に欠かせない総合的な能力が試された。
30分で「荷物運び・補充・客室整理」
競技開始を知らせる合図とともに、客室フロアに設置された30分のカウントダウンがスタート。人型ロボットはスタート地点からゆっくりと歩き出し、廊下の端に置かれたスーツケースへ向かった。
ロボットがまず挑戦したのは、スーツケースを荷物用カートに載せる作業だ。ロボットは器用な手を伸ばしてキャリーバーをつかもうとするものの、金属製のバーは滑りやすく、指が何度も外れる。ロボットは姿勢を調整しながら、さまざまな角度から再びつかむことを試みた。

別のロボットは、頭部や腕の部分を「背骨」にあたる中央軸に沿って上下に動かせる構造を採用。客室整理では、腕を適切な高さに調整して枕をつかみ、ベッドの上にきれいに並べた。その後、腕をさらに下げてシーツの端をつかみ、ベッドの上に広げていった。
競技では、実際のホテルでのゲストサービス業務を想定し、ロボットが30分以内に①荷物の搬送、②客室への備品補充、③客室整理の3つの作業を順番に完了させることが求められる。
参加者の張芸卓氏は、他チームの競技を見たうえで「最も難しいのは荷物カートの操作」と指摘する。同氏は中国人民大学・高瓴人工知能学院の博士1年生で、「中国人民大学・北京人形聯隊・iYZhou」のメンバーだ。
ホテルの廊下は狭い一方、人型ロボットの台座は比較的大きいため、スーツケースを載せたり降ろしたりする際の前後移動や方向転換のスペースが限られる。荷物カートにぶつからずに操作するには、高度な移動制御が必要になるという。
同チームは北京人形ロボットイノベーションセンターの「天軼」ロボットを使用し、完全自律方式で競技に臨んでいる。張氏によると、メンバーには大学1、2年生も多く、夏休みを利用してロボットの制御やロボットアームの操作を集中的に訓練している。
「運ぶ力」と「整える繊細さ」を両立
競技の荷物搬送では、ロボットは審判の開始指示を受けた後、スーツケース2個とバッグ2個をホテル客室から5メートル離れた荷物カートに載せる。その後、カートを指定された客室まで押して運び、荷物を室内の指定場所に置いたうえで、カートをスタート地点まで戻す必要がある。

客室の備品補充では、清掃カートからタオル1枚、使い捨てスリッパ2足、ミネラルウオーター2本を取り出し、所定の場所に正しく配置する。
さらに客室整理では、ベッドを整え、室内に散らばった使用済みタオル2枚とごみ1個を、それぞれ清掃カートの指定された回収容器に入れなければならない。

つまり、単に重い荷物を運べればよいわけではない。スーツケースのような重量物を安定して運ぶ力に加え、タオルやシーツといった形状が変化しやすい柔らかな物を丁寧に扱う繊細さも求められる。
ホテルシーン・ゲストサービス部門の責任者、李梓燁氏は「実際のホテルは実験室のように環境が標準化されていないため、ロボットの認識・位置特定能力や、予期せぬ状況への対応力がより厳しく問われる」と説明する。
完全自律型には高い評価
今回の競技では、完全自律型のロボットと遠隔操作型のロボットで得点方式にも差が設けられた。
完全自律型は通常の得点をそのまま獲得できる一方、遠隔操作型は得点に0.5倍の係数が掛けられる。難易度の高い完全自律運転の開発を促す狙いだ。
北京航空航天大学と智元ロボットが共同で結成した「北航智元聯合隊」も注目チームの一つ。同チームでは、作業を「ナビゲーション」と「実作業」の2つに分け、ソフトウエアのアルゴリズムと機械構造をそれぞれ最適化している。
チーム責任者は、実際のホテル環境ではロボットの「汎化能力」も重要になると説明する。
汎化能力とは、実験室で学習した基本的な判断や動作を、これまで経験したことのない状況にも応用する能力だ。ホテルでは家具の配置や物の位置などが完全に同じとは限らないため、こうした能力が連続作業を途切れさせないための鍵となる。
「競技」と「実用化」をつなぐ
なぜ、わざわざ実際のホテルを競技会場に選んだのか。
李氏によると、ホテルには標準化・反復性の高い業務が多く、作業頻度や労働負荷も高い。一方で人手不足も深刻であることから、現在の人型ロボットの技術段階と比較的相性が良いという。
「今回の競技では、競技会場と産業の実際の利用シーンをつなぎ、商業サービスの現場でロボットがどこまで作業できるのかを検証することを重視している」と李氏は話す。
実際、今年の競技では、単一の動作を披露する段階から、複数の作業を連続して完了させる段階へと進化したチームが増えた。柔軟な操作、重量物を扱う際のバランス制御、実際の環境への適応力などで、前回大会からの進歩が見られたという。
会場となった五洲大酒店も、競技を支えるため3室の客室をチームの訓練用に確保。さらに、ロボット専用の輸送ケースや専用エレベーターも用意し、ホテル内をスムーズに移動できる環境を整えた。
同ホテルではすでに、客室への荷物配送ロボットやスマートロッカー、AIスマートコンシェルジュなどを導入している。今後は荷物搬送のほか、麺類の調理やコーヒーの抽出などにもロボットを活用する計画だ。
「将来的には、このホテルをロボットをテーマにしたホテルにしたい」と北辰集団亜奥事務局の王凡氏は期待を寄せる。
今回の競技は、単に「人型ロボットが何ができるか」を競うだけではない。スーツケースを運び、タオルを整え、ベッドを片付けるという現実の仕事を通じて、ロボットが研究室から実際のサービス現場へ踏み出せる段階に来ているのかを試す場となっている。
(中国経済新聞)
