上海“小劇場ブーム”加速 国風怪奇劇『聊斎・浮生窃』が口コミで異例のヒット

2026/07/14 16:30

上海では近年、小劇場やイマーシブ(没入型)演劇市場が急速に拡大している。その中で、中国古典怪奇文学『聊斎志異』の世界観を取り入れた没入型舞台『聊斎・浮生窃』が、口コミを中心に高い評価を集め、新たなヒット作として注目されている。

同作品は6月下旬、大上海時代広場内の「星空間・驚喜劇場」で上演を開始した。公演開始から1カ月足らずで客席稼働率は70%以上を維持し、観客からは「人間の善悪や欲望を繊細に描き、結末には深い余韻が残る」と高い評価が寄せられている。

制作を手掛ける「逍遥戯劇」は、10年以上にわたり舞台作品を制作してきた劇団だ。創設者の逍遥氏と袁超氏は、卒業直後に100万元(約2,100万円)の資金調達に成功し、「老王」シリーズで注目を集めたが、新型コロナ禍で舞台業界が停滞し、大きな打撃を受けた。その後、企業向けプロジェクトなどを手掛けながら経営を立て直し、今回、小劇場市場へ本格参入した。

多くの劇団が人気の高いミステリーやホラー作品を制作する中、逍遥氏は自身が幼少期から学んできた京劇に着目。京劇の名作『烏盆記』を原案に、中国怪奇文学の代表作『聊斎志異』の世界観を融合させたオリジナル作品として『聊斎・浮生窃』を生み出した。

物語は、商人・劉世昌が殺害され、その魂が「烏盆」に宿って冤罪を晴らすという京劇『烏盆記』をベースに再構成。幼なじみ3人の友情や裏切り、欲望、罪悪感を軸に、人間の心の闇を描く中華風サスペンスへと発展させた。単純な復讐劇ではなく、人物それぞれの葛藤や運命を丁寧に描くことで、多くの観客の共感を呼んでいる。

作品の大きな特徴は、高い没入感にある。劇場入口は中国古典建築をイメージした屋敷となっており、観客は入場時から作品世界へ引き込まれる。劇場内は三つの空間で構成され、異なる時間軸の物語が同時進行。照明や煙、雪、風などの特殊演出に加え、俳優が客席を行き交いながら演技を行うことで、観客は物語の当事者として体験できる構成となっている。

また、京劇の所作や唱法、鼓や銅鑼のリズムなど、中国伝統演劇の要素も随所に取り入れられている。主演俳優には実力派と人気俳優を組み合わせ、配役ごとに異なる魅力を演出することで、複数回観劇するファンも増えている。

『聊斎・浮生窃』が誕生した背景には、上海で急速に拡大する小劇場市場がある。

「星空間」は2020年、環境型ミュージカル『アポロニア』のロングラン公演をきっかけに誕生し、その後、上海市内の大型商業施設へ次々と展開。現在では大上海時代広場や大世界、第一百貨店、世茂広場などにも劇場が設けられ、商業施設と演劇を融合させた新たな文化空間として定着している。

上海市演出業協会によると、2025年には市内100カ所の演芸新空間で年間1万6,769公演が行われ、観客動員数は213万人、興行収入は2億9,350万元(約61億6,000万円)に達した。

全国規模でも小劇場市場は拡大を続けている。中国演出業協会と灯塔研究院の調査では、2025年の劇場公演は全国で43万7,000回開催され、興行収入は101億8,000万元(約2,138億円)、観客数は5,830万人を突破した。小劇場や演芸新空間が全公演数の7割以上を占め、興行収入でも約半分を担うまでに成長している。

こうした市場拡大を受け、逍遥氏はシリーズ化も視野に入れる。物語をつなぐ重要人物「張別古」を軸に新作の構想を進めているが、「前作の予想を裏切る作品にしたい」と語る。現代都市を舞台に始まり、最後は古代へとつながるような新たな中華サスペンスも検討しており、「観客が予想する結末をすべて覆すことが、ミステリー作品の醍醐味だ」と意欲を示している。

(中国経済新聞)