かつて「北京・上海・広州・深圳(いわゆる一線都市)から逃げろ!」と叫んでいた90年代生まれ・2000年代生まれの若者たちが、いまは真逆の行動を取り始めている。
北京・上海・広州・深圳などの一線都市では、総額200万元(約2,500万円)以下の「老朽・狭小住宅」(中国でいう“老破小”=古くて狭い中古マンション)が、2025年の中古住宅市場を支える主役に躍り出ているのだ。
不動産調査会社・CRIC(克而瑞)の最新データによれば、2025年10月の北京では総額200万元以下の物件が取引全体の57.19%を占めた。上海でも48.72%とほぼ半数に達し、深圳を含む主要3都市すべてで、前月比・前年比ともに大幅な増加が続いている。
新築マンションの販売が前年比7%減と低迷する一方で、中古住宅全体の取引量は前年比6%増と堅調。その中心にあるのが、この低価格帯の“老朽・狭小中古マンション”だ。
その理由はシンプルで、「手が届くようになったから」である。
1. 価格下落で“六つの財布”が不要に
かつて北京でまともなマンションを買うには、両親や祖父母の貯金を総動員しても足りず、“六つの財布(両家の両親+祖父母)”が必要と言われていた。
しかし、2024年以降の継続的な価格下落により、北京3環エリアや地下鉄駅に近い40〜60㎡ほどの古いマンションが、頭金+ローンの合計で200万元前後まで下がってきた。
年収15万元(約250万円)前後の若者でも、努力すれば手が届く水準になったのだ。
2. 究極の実需(極致剛需)の受け皿
中指研究院(中国の不動産研究機関)の曹晶晶総経理は次のように分析している。
「200〜300万元の物件は60〜80㎡の2LDKが中心で、一線都市で初めて家を買う若者層にぴったり合う。資金に余裕はないが、結婚・出産で一刻も早く“自分の家”が欲しい層にとって、この価格帯はまさに最後の砦だ」
3. 学区・通勤・生活利便性が揃う
この価格帯の物件は、1980〜90年代に建てられた団地や商品住宅が多く、周辺のコミュニティはすでに成熟している。大型スーパー、病院、地下鉄駅が徒歩圏内で、人気の学区に含まれるケースも珍しくない。
「新築は高すぎて、しかも郊外で遠い。でも、この古い団地なら子どもを通わせたい学校のすぐ近くなんだ」と語る30歳前後の購入者も多い。
4. 賃貸利回りも悪くない
北京の五環以内や上海の内環(中心部)では、総額200万元の物件を月8,000元で貸せれば表面利回りは4%超になる。投資目的で購入し、家賃収入をローン返済に充てる人も増えている。
2010年代前半、「北京・上海・広州(北上広)から逃げろ」という言葉が流行した。当時は「給料は上がらないのに家賃と物価だけ上がる」という絶望感が背景にあった。
しかし、2025年の現在、状況は大きく変わった。リモートワークが普及し、地方に戻っても仕事は減りがち;地方都市の賃金上昇が追いつかない;親世代までもが「やはり北京や上海の方が将来安心」と考え始めた。
こうした状況から、若者たちは「逃げるより、ここで根を張るしかない」という考えに傾き始めている。
実際に北京で中古マンションを買った若者はこう語る。
「3環内、築40年、5階建ての階段物件でエレベーターなし。でも地下鉄まで徒歩8分。これで198万元。家賃1万2,000元のワンルームに住み続けるより、こっちを買った方が“勝ち組”になれる気がした」
2025年の一線都市の中古住宅市場は、もはや「老朽・狭小住宅」なくして成り立たない。新築は高すぎて売れず、広い物件への買い替え需要(改善型購入者)は様子見。動いているのは、初めて住宅を購入する20代後半〜30代前半の若者だけだ。
彼らが選ぶのは、見た目こそ古いが、生活に必要なものがすべて揃った“実用性の塊”、それこそが総額200万元前後で買える「老朽・狭小中古マンション」なのである。
かつて「一線都市から逃げろ」と言っていた若者たちが、今では「逃げられないなら、ここで勝負する」とばかりに、古いマンションを買い集めている。
これは単なる不動産市場の現象ではない。
中国の若者たちが、絶望ではなく**“現実的な希望”**を見据えて、一線都市に根を下ろし始めた瞬間なのかもしれない。
(中国経済新聞)
