中国では近年、地方の小さな町や県城を訪れる旅行が人気を集めている。今年の中秋節・国慶節の大型連休も、混雑する観光地を避けて地方へ向かう「奔県旅行(県城旅行)」が話題となった。なかでも、地域ならではの文化や伝統工芸を実際に体験する「体験型旅行」が、若者を中心に注目を集めている。
美団(メイトゥアン)のデータによると、9月28日時点で、中秋節・国慶節期間に4~6泊する民宿の予約件数は前年同期比24%増加した。県域の観光地では特に伸びが大きく、四川省九寨溝県(きゅうさいこう)は281%増、新疆ウイグル自治区布爾津県(ふじんけん)は206%増、吉林省安図県(あんとけん)は71%増となった。江西省婺源県(ぶげんけん)と広東省南澳県(なんおうけん)でも、民宿の予約件数は前年同期比で約6割増加した。
同程旅行のデータでも、9月14日時点で、連休期間中の県域旅行商品の予約人気は前年同期比42%上昇した。県域での平均滞在日数も前年同期より3.2日増えている。同程旅行で「県城深度旅行」の人気目的地となっているのは、福建省平潭(へいたん)、浙江省淳安(じゅんあん)、海南省保亭(ほてい)、河南省中牟(ちゅうぼう)、山西省平遥、浙江省仙居(せんきょ)、浙江省安吉(あんきつ)、吉林省安図(あんと)、雲南省建水(けんすい)、福建省徳化(とくか)などだ。平潭では、ホテルや民宿などの旅行商品の予約人気が前年同期比62%上昇した。

「有名スポット巡り」から「その土地ならではの体験」へ。こうした地方旅行の人気について、広東省体制改革研究会の彭澎・執行会長は、観光業の発展に伴い、人々の旅行に対する意識や興味も変化していると分析している。混雑した有名観光地を訪れるよりも、規模は小さくても個性的で、その土地ならではの体験ができる場所を選ぶ若者が増えているという。
背景には、交通インフラの整備もある。高速鉄道や高速道路、航空路線などのネットワークが整備され、地方の小都市や県城にもアクセスしやすくなった。さらに、ホテルや映画館、飲食店、さまざまな消費ブランドが地方都市へ進出し、観光客を受け入れる環境も整ってきた。
その結果、これまで観光地としてあまり注目されてこなかった県城が、新たな旅行先として存在感を高めている。
若者の旅行は「見る」から「やってみる」へ。こうした変化を象徴するのが、体験型の旅行だ。小紅書(RED)が発表した「2026小紅書興趣旅行トレンド報告」によると、2026年9月時点で、手仕事や歴史探訪、アウトドアなどに関連する「体験型」旅行の検索数は前月比48%増加した。観光名所を訪れて写真を撮ることを中心とした「定番・映え型」の検索と比べても、伸び率は1.6倍以上に達している。
また、県域観光に関する検索数の伸びは旅行カテゴリー全体の2.8倍に上った。こうした若者の興味の変化が、「奔県旅行」の人気をさらに押し上げている。なかでも注目されているのが、旅先で伝統工芸を実際に体験する「手仕事体験」だ。

雲南省大理市周城村の白族の藍染め、鶴慶県新華村の銀細工、江西省景徳鎮市三宝村の陶磁器づくり、雲南省玉龍ナシ族自治県玉湖村の東巴紙づくりなどは、実際に手を動かして伝統技術を体験できる場所として人気を集めている。単に工芸品を見たり購入したりするのではなく、自分で作ってみる。旅先で「一日職人」になり、その土地の文化を身近に感じることが、若者にとって新たな旅行の楽しみ方になっている。
横店では「自分がドラマの主人公」に
体験型観光の広がりは、伝統工芸だけにとどまらない。浙江省東陽市の横店影視城では、今年の中秋節・国慶節連休に「横店で短編ドラマを撮ろう」と題した無料体験イベントが再び行われた。観光客は入場券を購入すれば、5つのテーマパークを観光できるだけでなく、短編ドラマの撮影に無料で参加したり、撮影の様子を見学したりできる。

「横店では誰もが主役になれる」という趣向で、連休に向けて10カ所の無料撮影スタジオが用意され、400人以上のスタッフが観光客と一緒に演技を楽しんだ。映画やドラマの撮影地を「見る」だけでなく、自分自身が作品の世界に入り込み、出演者として体験する。こうした参加型の観光も、若者の人気を集めている。
中国政府も県域観光の発展を後押ししている。9月24日に国務院新聞弁公室が開いた記者会見で、文化・観光部資源開発司の満宏衛司長は、「第15次五カ年計画」期間中、観光業の地域配置をさらに整備すると説明した。都市と農村の連携を重視し、32の観光ハブ都市、33の重点観光都市、23の特色ある観光地を整備するとともに、県域観光にも力を入れ、より多くの「観光名県」や特色ある小都市を育成していく方針だ。
旅行予約サイトの去哪儿(Qunar)のビッグデータ研究院も、交通インフラの整備や地域内の移動手段の改善によって、県城観光では「一極集中」から分散型へと変化していると分析している。
民俗文化、無形文化遺産、古建築を巡る旅に加え、サイクリング、ハイキング、研学旅行など、さまざまな新しい観光スタイルが県城に広がっている。県城は今や、観光だけでなく、新たな消費やレジャーを生み出す舞台にもなりつつある。
「観光する」から「その土地で体験する」へ
「奔県旅行」の広がりは、中国の観光スタイルが変わりつつあることを示している。有名観光地を効率よく巡る従来型の旅行から、混雑を避け、地域独自の文化や暮らし、伝統技術、自然をじっくり楽しむ旅行へ。特に若者の間では、「どこへ行ったか」だけでなく、「そこで何を体験したか」が旅行の大きな価値になっている。交通網の整備と地方の観光インフラの充実が進むなか、県城はもはや大都市へ向かう途中の場所ではない。
そこには、そこでしかできない体験がある。
(中国経済新聞)
