中国人、もう借金をしないのか

2026/07/26 08:30

2026年7月、ゴールドマン・サックスが公表したリポートが市場に波紋を広げた。タイトルは『中国人資産負債表:継続的なデレバレッジを背景とした不動産から金融資産への構造的移行』。その中で特に印象的な一文がある。

 「不動産という主要な富の媒体としての影響力が徐々に弱まる中、家計の資産と負債の変化が、信頼感、消費、そして市場のパフォーマンスを左右する重要なドライバーとなっている。」

平易に言い換えれば、過去二十年続いた「住宅価格の上昇→担保価値増→信用拡大→消費活発化」というエンジンが止まった。中国の人々はお金がないわけではない。ただ、借金をしたくないと判断しているのだ。

 中国人民銀行のデータはそれを裏付ける。今年1~5月、家計向け貸出は純減6314億元(約15兆1487億円)。4月単月ではマイナス7900億元と、記録的な落ち込みとなった。一方で預金は第1四半期に7・68兆元急増。「貯めるはするが、借りはしない」が今の家計の実態だ。

 ゴールドマン・サックスは1992年まで遡り、中国の家計資産を四つの時代に区分した。1992~2002年は年平均25%の急成長期、2002~2012年は20%、2012~2022年は10%、2025年以降は約5%の緩やかな安定期に入ると見る。

転機は2023年初頭。家計総資産がピークに達した後、六四半期連続で減少し、最近730兆元(約17512兆円)近くでL字的に安定した。V字回復ではなく、預金積み増しと金融資産の上昇で不動産の下落を相殺した形だ。

 資産構成の変化は劇的だ。2021年(不動産ピーク時)と2026年第1四半期を比べると、不動産比率は67%から52%へ15ポイント低下。一方、現金・預金は16%から25%へ、株式・ファンド・保険などの金融資産は15%から20%へ上昇した。総資産730兆元規模で110兆元超の資金が不動産から引き揚げられた。

 ゴールドマン・サックスは2035年までに不動産比率が42%まで低下し、毎年約6兆元が金融資産へ流れると予測する。しかし、この「資産の大移動」は今、壁にぶつかっている。人々がレバレッジをかけようとしないのだ。

 なぜ中国人たちは借金を避けるのか。第一の理由は「バランスシートの痛み」だ。名目住宅価格はピークから30%下落した例もあるが、住宅ローン返済は変わらず続く。レバレッジ比率(債務/GDP)は59%%まで低下したが、債務/可処分所得は140%(米国100%)と高い。資産は目減りしたのに債務は硬直的で、まず借金を返済しようという行動につながる。これがバランスシートの修復だ。

 第二の理由は、住宅ローンの繰上返済が習慣化したことだ。2025年の家計住宅ローン返済額は約5兆元で、うち繰上返済が3兆元。大手六行の住宅ローン残高も2024年0・62兆元減、2025年0・71兆元減と「6兆元時代」を終えた。

 第三の理由は、家計貸出全体の劇的な変化だ。2020年は年間7・87兆元増加、2021年も7・97兆元だったが、2022年3・83兆元、2024年2・72兆元、2025年4417億元と急減。2026年1~5月はマイナス6314億元に転落した。特に短期貸出(消費貸・カード)は2026年1~4月でマイナス6102億元と深刻だ。人々は日常消費すら借入を控えている。

借入減少は一見健全に見えるが、消費への影響は大きい。社会消費品小売総額の伸び率は5%を下回り、自動車消費は第1四半期前年比マイナス10%、建材・家具・家電も弱い。お金が返済に回り、消費に回らない。

 これは負の連鎖を生む。資産目減り→デレバレッジ→消費収縮→企業収入低迷→投資縮小・雇用期待悪化→さらなる借入抑制。高盛は「家計のバランスシートを見なければ、消費が回復しない理由も市場の資金ロジックも理解できない」と指摘する。

 今後の見通しとして、ゴールドマン・サックスは2035年までに不動産比率42%へ低下、株式11%、保険10%へ上昇を予想。 毎年6兆元が金融資産へ流入するが、一直線ではない。家計のリスク選好は保守的で、資金はまず預金に向かい、株式への直接流入は限定的だ。株式配分は現在10%未満だが、リスク調整後リターンが預金を上回ることが前提となる。

 潮は確かに変わりつつある(リポートタイトル。しかしV字ではなく、L字で横ばいしながら構造をゆっくり移行させる形だ。

 中国人たちが突然借金を嫌いになったわけではない。彼らは一つの計算を下した。住宅はもう値上がりしない、収入見通しは不安定、債務は硬直的ーーこの条件下で、「レバレッジの期待リターン」が「確定したコスト」を初めて下回った。

 「借金して勝つ」から「まず借金を完済する」へ。手元に現金を確保し、不確実な支出や借入を避ける。この世代は価格下落と収入変動を自らの財布で学んだ教訓だ。

(中国経済新聞)