2024年8月に発売された中国初の本格AAAアクションRPG『黒神話:悟空(Black Myth: Wukong)』は、中国ゲーム業界に大きな転機をもたらした。それから2年が経過した現在、中国の買い切り型(シングルプレーヤー)ゲーム市場では、開発者、投資家、大手ゲーム企業が相次いで参入し、新たな大型タイトルが続々と開発されている。一方で、市場関係者は「真の転換点は次世代作品の商業的成功によって初めて証明される」と冷静な見方も示している。
『黒神話:悟空』の発売直後、中国のゲーム開発者の多くは大きな衝撃を受けた。
ゲーム会社・星辰無双(Star Infinity)の創業者兼CEO、濮冠楠氏は発売から48時間ほぼ眠らずにゲームをクリア。その後、自ら脚本を執筆する中国初のAAA級SFシングルゲーム『時空低語(Whispers of Space-Time)』の開発を決意した。
同氏は「『黒神話:悟空』がなければ、新たにシングルゲームへ参入する人はほとんどいなかっただろう。既存の開発者ですら希望を失っていたかもしれない」と語る。『黒神話:悟空』は理想論だった中国産AAAゲームに、現実的なビジネスモデルを示した作品だったという。
この変化は今年開催されたゲームイベント「ChinaJoy」でも顕著だった。
国産シングルゲームの『猿公剣(Sword of the Ape King)』、『一盞秋声:錦衣衛(Autumn Echo: Jinyiwei)』、『古神:風里希(Ancient Gods: Fenglixi)』などのブースには試遊を待つ長い列ができ、国産シングルゲームへの注目度は過去最高水準に達した。

ゲームパブリッシャーGCL(嘉仕爾)の中国事業責任者、呂晟氏は、「この2年間で2A、3Aタイトルが明らかに増え、プレーヤー数や販売本数も着実に伸びている」と分析する。同社は『黒神話:悟空』の販売にも関わっており、現在も複数の国産AAAタイトルへ投資を行っている。
呂氏は「2027~2028年が短期的な爆発期になる」と予測する。過去数年間に開発が始まったプロジェクトが、この時期に一斉に市場へ投入される見通しだ。
一方、開発現場では技術力の向上も追い風となっている。
『一盞秋声:錦衣衛(Autumn Echo: Jinyiwei)』のプロデューサー、劉啓威氏は、「10年前は技術不足のため、中国文化を前面に押し出すしかなかった。しかし現在は、高品質なグラフィックやゲーム性によって世界中のプレーヤーを引き付け、その後に文化的価値を理解してもらえる段階に入った」と話す。
また、『古神:風里希(Ancient Gods: Fenglixi)』を開発する劉洋氏は、中国ゲーム業界は約10年ごとに新たな起業ブームを迎えてきたと指摘する。2005年前後にはオンラインゲーム企業が台頭し、2015年前後にはモバイルゲーム企業が急成長。そして『黒神話:悟空』を起点として、今後はシングルゲーム分野から新たな有力企業が誕生する可能性があるという。
大手企業も積極的な投資を進めている。
テンセントは2021年に『影之刃零(Phantom Blade Zero)』の開発会社・霊遊坊へ数億元規模を出資したほか、『湮滅之潮(Tides of Annihilation)』や『古剣(GuJian)』シリーズなどにも投資している。
ソニーはPlayStationプラットフォームや「China Hero Project(中国之星計画)」を通じて中国ゲームの世界展開を支援。ネットイース(NetEase)も自社開発タイトル『帰唐(Return to Tang)』を発表し、AAA市場への本格参入を進めている。

業界が最も注目している次の大型タイトルが、2026年10月発売予定の『影之刃零(Phantom Blade Zero)』だ。
データ分析会社GameDiscoverCoによると、8月4日時点でSteamのウィッシュリスト登録数は約162万件となり、2026年発売予定タイトルの中で世界最多を記録している。業界では販売本数1,000万本突破への期待も高まっている。
一方で、市場全体はまだ発展途上にある。
中国音像・デジタル出版協会ゲーム工業委員会による「2026年上半期中国ゲーム産業報告」では、中国コンソールゲーム市場の上半期売上高は約9億6,000万元(約221億円)となり、前年同期比7%減少した。『黒神話:悟空』に匹敵する大型新作が不足したことが要因とされる。
投資環境も依然として慎重だ。AAAゲームは開発期間が長く、投資額も莫大で、成功リスクが高い。『黒神話:悟空』は中国産AAAゲームが世界市場で成功できることを証明したものの、高コスト・長期開発という構造的課題までは解決していない。
それでも、『黒神話:悟空』が中国ゲーム産業にもたらした影響は大きい。人材、資金、プロジェクトがシングルゲーム市場へ集まり始め、2025年には100万本以上を販売した中国産買い切りゲームが過去最多の5作品となった。
開発者の濮氏は『黒神話:悟空』を「一粒の種」と表現する。
「創作はAIのように計算能力を積み上げればすぐ成果が出るものではない。時間をかけて積み重ねることで初めて大きな花が咲く。『黒神話:悟空』は、多くの開発者に『この畑には耕す価値がある』と信じさせてくれた作品だった」と語っている。
(中国経済新聞)
