新薬開発の活発化を背景に、医薬品の前臨床試験で不可欠な実験用サルの需給が再び逼迫している。特にカニクイザル(食蟹猴)は価格が急騰し、調達難が深刻化しており、創薬企業や医薬品開発受託機関(CRO)の研究開発コストを押し上げている。
中国のあるバイオ医薬企業の研究開発責任者は、「価格が高いだけでなく、そもそも確保できない」と現状を語る。別の製薬会社の研究者によると、最新の見積もりではカニクイザル1頭の価格は約20万元(約410万円)に達し、多くのCROでは今年利用できる実験用サルの予約枠がすでに埋まっているという。
実験用サルは、薬剤の安全性や有効性を確認する前臨床試験に欠かせない存在であり、中でもヒトとの遺伝的・生理学的類似性が高いカニクイザルとアカゲザルが広く利用されている。特にカニクイザルは研究データの蓄積が豊富で体格が比較的小さく、使用する薬剤量も少なく済むことから、世界的にも最も利用される霊長類実験動物となっている。
価格は2025年後半に再び10万元(約200万円)台へ回復し、2026年に入ると急騰が続いた。中国科学院上海薬物研究所が2026年3月に実施した調達では、病原体を保有しない「五陰性」カニクイザル450頭を総額5,895万元(約11億7,900万円)で購入し、1頭当たり約13万1,000元(約262万円)となった。2025年5月時点では約9万2,000元(約184万円)だったことから、短期間で大幅な値上がりとなっている。
背景には、新薬開発の活況がある。中国国家薬品監督管理局によると、2025年の新薬臨床試験は2,997件と前年比18%増加し、全体の臨床試験件数は初めて5,000件を突破した。さらに2026年上半期の中国製薬企業による海外ライセンス契約総額は997億ドルに達し、創薬投資は引き続き高水準で推移している。
証券会社の分析では、抗体医薬、ADC(抗体薬物複合体)、核酸医薬、細胞・遺伝子治療(CGT)など大型分子医薬品の研究開発が加速しており、これらの分野では非ヒト霊長類による評価が不可欠であることから、実験用サルの需要は今後も拡大すると見込まれている。
一方で、供給不足をさらに深刻化させているのが繁殖能力の制約だ。カニクイザルは性成熟まで約4年、妊娠・授乳期間を経て実験に使用可能になるまでには6~7年を要する。このため短期間で供給を増やすことは難しい。
専門家によると、中国国内では年間約3万頭の実験用サルが必要とされる一方、供給不足は約1万頭に達している。現在の高価格では、繁殖用に残すよりも販売を優先する養殖業者が多く、繁殖群の高齢化も進行しており、将来的な供給能力の低下が懸念されている。
近年、多くのCRO企業は実験用サルの繁殖施設を買収・整備し、安定供給体制の構築を進めてきた。昭衍新薬や薬明康徳、康龍化成など大手企業は現在、中国国内の実験用サル資源の大部分を保有しており、サル資源そのものが競争力の源泉となっている。
一部では東南アジアからの輸入再開を求める声もあるが、専門家は感染症リスクなどを理由に慎重な姿勢を示している。2019年に輸入が一時解禁された際には、結核菌などの病原体検出率が上昇した事例も報告されており、品質管理上の課題は依然として大きい。
オルガノイド(臓器モデル)など新たな非動物実験技術(NAMs)の導入も進んでいるが、現時点では霊長類実験を完全に代替することは難しいとの見方が支配的だ。専門家は、人工繁殖や生殖補助技術の導入によって繁殖効率を高め、持続可能な繁殖群を維持することが、長期的な供給不足解消の鍵になると指摘している。
(中国経済新聞)
