中国の一・二線都市で、新築住宅の高さを制限する動きが加速している。ここ数カ月、成都、上海、広州、深圳といった主要都市が土地出讓条件や行政通知を通じて、住宅建物の「原則80メートル以内」という基準を明確化。80メートルを超える場合は、消防救援能力との整合性を必ず確認するよう求め、実質的に超高層住宅の新規建設を厳しく制限し始めている。
南方都市を中心に大量供給されてきた40~70階級の超高層住宅から、低密度・小高層へと転換する政策上の大きな節目といえる。

1.一・二線都市で“80メートル上限”が続々登場
12月1日、成都公共資源取引センターが公表した4件の住宅用地公告では、4件中3件が建物の高さを「80メートル以下」「60メートル以下」「54メートル以下」と明確に制限した。
同様の制限は上海や広州の土地出讓でも増えている。
たとえば上海の2024年10月の土地区画売却(第8回土拍)では、保利置業が取得した杨浦東外灘の宅地に「容積率2.5、高さ80メートル以下」という条件が付与された。
広州でも、广州大道南788号二期地塊で「住宅が80メートルを超える場合は消防救援部門の意見が必須」と明記。これは2025年10月に深圳市が示した同様の方針とも一致する。深圳の通知では、80メートル超の住宅は土地供給段階と消防審査段階で必ず専門部署の審査を受けるよう規定し、事実上の“80メートル上限”を明確にした。
2.南方都市で隆盛した“超高層住宅ブーム”に転機
広州や深圳では過去10年、多くの超高層住宅が供給され、60~70階・200メートル前後の物件が市場の象徴となってきた。
深圳・深業世紀山谷(2024年供給):69階・247m、単価9万元/㎡超
深圳・緑景白石洲一期(2023年):74階・243m
深圳・加福華爾登府邸(2021年):67階・239m
広州でも過去5年で40階以上の新築住宅が40件超、100メートル以上の住宅は100件を超えたとされる。

しかし、こうした“高さ競争・量競争”の象徴だった市場は、消防安全や避難性能、維持管理コストといった課題が顕在化したことで、徐々に政策修正の方向へ向かっている。
3.《住宅プロジェクト規範》が示した全国基準――高さ80m、最大26階、容積率3.1
2024年5月1日に施行された《住宅プロジェクト規範》は、全国共通の住宅建築ルールとして以下の基準を示した。
住宅の最大高さ:80メートル;階数上限:18~26階(気候区にかかわらず);最大容積率:3.1
広州・深圳などのⅣ類気候区では「容積率3.1、26階、80m」が標準的な上限となる。
地方もこれを基準に独自規制を整備している。
河南省鄭州市(2024年12月):高さ80m以下、容積率2.5以下
江蘇省(2025年1月施行):原則100m超の住宅建設禁止、人口100万未満都市は80m超を厳格制限
深圳(2025年10月):80m超は厳格審査、原則80m以内
広州(2025年):多くの宅地で容積率3.0以下、80m超は消防審査必須
“80メートルライン”が全国の実質的な共通基準になりつつある。
4.超高層住宅が抱える“リスクと高コスト”
専門家によれば、超高層住宅は一般住宅と比べ、複合的なリスクを抱えている。
■ 消防救援の限界:消防雲梯の到達高さは約52m(17階前後)、80m超は外部救助が困難で、内部の消防設備に依存。
■ 避難時間の増大
100m超では地上までの避難に30分以上、煙充満やパニックによる事故リスクが増加。
■ 維持管理コストの上昇
管理費は一般住宅の3~5倍、多数のエレベーター、外壁保守、給排水・空調設備の高度化などが要因。
■ その他の潜在リスク
高空落下物、エレベーター故障時の生活機能低下、ガス・給排水トラブルの復旧難度などあある。こうした問題を背景に、高層志向から住環境・安全性を重視する政策転換が進んでいる。
上海易居研究院の厳躍進・副院長は、次のように分析する。「限高80m、容積率規制、消防審査の強化によって、市場は“規模競争”から“品質競争”へと移行する。今後は低密度や小高層の住宅が主流になるだろう。」
土地利用効率を極限まで追求する高層重視の時代は終わり、住み心地や安全、街区環境を重視する都市計画へと移行しつつある。
中国の住宅市場は、量の拡大から質の向上へと重心を移す新たな局面に入りつつある。
(中国経済新聞)
