世界的に銅価格の上昇が続くなか、中国の家電業界が空調分野で「アルミによる銅代替」(アルミ代銅)を本格的に推進し始めた。2025年、中国は世界最大の空調生産国・消費国として、銅依存を軽減し産業の安全性を高めるため、関連標準の整備を急いでいる。
12月11日に開催された「2025年中国家電科技年会」では、中国冷凍学会が団体標準「ルームエアコン用アルミ管フィン式熱交換器生産ライン建設規範」を正式に公表した。また、アルミ製熱交換器の原材料に関する技術要件や、翼形状を改良した熱交換器の生産ラインに関する標準化作業も進行中だ。国家標準「ルームエアコン用熱交換器」も改訂作業が始まっており、次回の議論は2026年1月に行われる予定である。
19社が参加、業界横断で「アルミ化」を推進
標準改訂作業には、格力(Gree)、美的(Midea)、海尔(Haier)、小米(Xiaomi)、海信(Hisense)、TCL、奥克斯(AUX)といった大手メーカーに加え、三花グループや大学・研究機関も幅広く参画している。
中国家用電器研究院が設けた「空調アルミ強化応用研究ワーキンググループ」には、すでに19社が加盟。空調メーカーだけでなく、アルミ管材、金属材料、溶接技術、新素材など関連産業の企業も参加し、業界横断の体制が整いつつある。
同研究院の宮赤霄(みや・せきしょう)総工程師によると、今年は空調用アルミ熱交換器に関する標準体系を構築し、自動車向け熱交換器の経験を参考に耐久年数や試験方法の整理を進めた。来年には「中国空調産業アルミ応用白書(第2版)」も発表するという。
銅依存のリスクが浮き彫りに
アルミ代銅推進の背景には、空調産業の構造的リスクがある。全国政協委員で北京冷凍学会名誉理事長の唐俊杰(とう・しゅんけつ)氏は、全国人民代表大会・全国政協の会議(両会)で「中国の豊富なアルミ資源を活用し、空調産業チェーンの安全性を高めるべきだ」との提案を提出。すでに工業情報化部(工信部)、財政部、市場監督総局が回答している。
唐氏によると、家庭用エアコンでは熱交換器に大量の銅が使用され、2023年の銅消費量は172.3万トン、これは中国全体の銅消費の10.7%に及ぶ。一方、銅の80%は輸入に依存している。
対照的に、中国の電解アルミ生産量は世界の約60%を占め、資源面で大きな強みがある。自動車用エアコンや冷蔵庫ではすでにアルミ熱交換器が一般化しており、日本のダイキン工業も2024年には家庭用エアコンでのアルミ採用率が50%を超えた。
技術・標準・消費者意識という「三つの壁」
しかし、アルミ代銅の普及には三つの課題があると唐氏は指摘する。耐腐食性など技術面の難題;国家標準の未整備、統一した検査体系の欠如;「アルミは銅より劣る」という消費者の根強いイメージである。特に三点目については、競争激化の中で誤った情報が流されるケースもあり、市場の混乱要因となっている。
美的の材料技術研究者・尚秀玲(しょう・しゅうれい)氏は、アルミ代銅には基材の耐食設計、表面の亜鉛処理、コーティング設計など複数の技術が必要であり、「沿海部のように腐食環境が厳しい地域では、適切な素材選択が不可欠だ」と説明する。
また、海信の技術責任者・呉紅霞(ご・こうか)氏は、新たな団体標準によって生産ラインのばらつきが是正され、耐腐食試験などの評価基準も明確になると強調した。
政府計画でも「アルミ化」を重点支援
今年3月には工信部を含む10省庁が「2025〜2027年アルミ産業高品質発展計画」を公表し、エアコン・冷蔵分野でのアルミ熱交換器の応用を重点的に支援すると明記した。
今後策定される「第十五次五カ年計画」の国家重点研究開発プロジェクトでも、高耐腐食アルミ熱交換器の技術開発や加工装備の高度化が進められる。
中国の空調市場は年間1億台規模に達し、関連産業は“1,000億元級”の巨大市場を形成する。銅価格の高騰と供給不安が顕在化するなか、アルミ化は単なる素材の置き換えではなく、産業全体の競争力を左右する戦略的課題となっている。
主要メーカーによる連携と標準整備が、消費者の意識をどこまで変え、技術革新をどこまで加速させるのか。2026年に予定される国家標準の改訂は、その重要な節目となりそうだ。
(中国経済新聞)
