大丸松坂屋、上海新世界百貨店の事業提携を終了

2026/01/27 11:01

2025年12月、日本の大手百貨店運営会社であるJ・フロント リテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店は、上海の「上海新世界大丸百貨」に関する事業提携を終了することを発表した。この提携は、上海新丸商業運営有限公司との間で2013年に開始されたもので、2025年12月末の契約満了に伴い、双方合意のもとで終了する運びとなった。

 これにより、2015年5月に開業した同百貨店は、2026年1月1日から「大丸」の商標を外し、新たな店名「新世界新丸中心 NEW ONE」として本土企業による独立運営に移行する。また、大丸松坂屋の現地法人である大丸松坂屋百貨経営諮詢(上海)有限公司も解散手続きを開始する。この動きは、日系企業が中国市場で長年蓄積したノウハウを現地に譲渡し、撤退する典型例として注目を集めている。

上海新世界大丸百貨店の軌跡

 大丸松坂屋と上海新丸商業運営の提携は、2013年1月に事業提携枠組み契約書が締結されたことに遡る。当時、中国の消費市場は急速な成長を遂げており、日系百貨店は高品質な商品と洗練された運営ノウハウを武器に進出を加速させていた。大丸松坂屋は、人材派遣を通じて開業準備と運営支援を提供し、2015年5月に上海新世界大丸百貨がグランドオープンした。同店は、上海の中心部である南京東路に位置し、約5万平方メートルの売場面積を誇る大型施設で、日系百貨店として中国本土で初の本格的な旗艦店となった。 開業当初は、日本ブランドの導入や高級志向の商品構成が特徴で、富裕層や若年層をターゲットに差別化を図った。

 提携期間中、同店は着実な業績を上げた。2024年の売上高は23億元(約450億円)を突破し、客流量は1700万人次を超えた。2025年に入っても、売上と客流が二桁成長を維持しており、百貨店業界全体が新型コロナ禍の影響やオンラインシフトで苦戦する中、目立つ存在だった。ブランド構成のアップデートも進み、Luluemonなどの国際ブランドが旗艦店として入居し、生活方式分野での魅力を強化した。これらの成果は、大丸松坂屋の運営ノウハウが現地に根付いた証拠といえる。

提携終了の直接原因:契約満了と事業の成熟

 大丸松坂屋の提携終了の最も直接的な原因は、10年間の契約期間の満了である。提携契約は当初から期限付きで設定されており、2025年12月31日をもって終了する予定だった。J・フロント リテイリングの発表によると、双方は合意の上で提携を終了し、今後も友好的な関係を維持するとしている。

 注目すべきは、上海新世界大丸百貨が「成長軌道に乗った」ことが終了の前提条件として挙げられている点だ。開業から10年で、同店は日系運営の支援なしでも自立可能なレベルに達したと評価された。実際、コロナ禍後の回復力が高く、過去最高売上を達成した背景には、現地チームの能力向上がある。大丸松坂屋側は、この提携を通じて「大丸松坂屋百貨店の認知度向上や、海外展開のノウハウ蓄積」を実現したと述べ、退出をポジティブに位置づけている。

 このような契約満了による退出は、日系企業の中国ビジネスで一般的だ。初期段階で技術支援を提供し、現地企業が成熟したら撤退するモデルは、リスクを抑えつつ利益を確保する戦略である。大丸松坂屋の場合、提携は出資ではなくコンサルティング形式だったため、店舗の損益が直接影響せず、安定した収益源となっていた。しかし、契約満了を機に、現地法人の解散を選択したのは、支援の役割が完了した証左だ。

 背景要因一:中国消費市場の構造変化と本土化の推進

 提携終了の背景には、中国消費市場の急速な変革がある。中国の百貨店業界は、eコマースの台頭やライブコマースの普及により、伝統的な実店舗が圧迫されている。2020年代に入り、アリババやテンセントなどのデジタルプラットフォームが消費の主流となり、百貨店は単なる販売場所から体験型空間への転換を迫られた。上海新世界大丸百貨も、このトレンドに対応し、ブランド構造のアップグレードを進めたが、日系運営の継続はコスト負担が増大していた可能性が高い。

 さらに、中国政府の「本土化」政策が影響している。近年、中国は外資依存からの脱却を推進し、内需主導の経済モデルを強化している。

 2025年頃の中国市場では、地元企業が国際ブランドを直接誘致する事例が増え、日系企業の役割が薄れている。上海新丸商業運営は、大丸のノウハウを吸収した上で、独立運営に移行することで、より柔軟な戦略を取れる。 

 新店名「NEW ONE」は、この本土化の象徴であり、若年層向けの生活方式センターとして再定義される見込みだ。業界関係者は、「これは撤退ではなく、成熟プロジェクトの移行」と指摘するが、裏を返せば、日系企業が中国市場で長期滞在する難しさを示している。

 背景要因二:日系企業のグローバル戦略再編とリスク回避

 大丸松坂屋の親会社であるJ・フロント リテイリングの視点から見ると、退出はグローバル戦略の見直しの一環だ。同社は国内事業の強化を優先しており、海外展開は選択と集中を進めている。

 中国市場は魅力的な一方で、地政学的リスクが高い。2020年代の日中関係は、台湾問題や貿易摩擦で緊張が続き、企業はサプライチェーンの多角化を迫られた。大丸松坂屋も、提携終了により中国関連の運用コストを削減し、国内や東南アジアへの投資にシフトする可能性がある。

 また、百貨店業界全体の低迷が要因だ。日本国内では、少子高齢化とオンラインシフトで百貨店売上が減少しており、海外事業の効率化が急務。上海提携は成功例だが、契約満了を機にリソースを回収するのは合理的だ。現地法人の解散は、人員配置の最適化も意味し、約10人の日本人スタッフが帰国する見込み。こうした動きは、他の日系企業(例:イオンやユニクロ)の中国戦略縮小と連動している。

 背景要因三:経済環境の変化と持続可能性

 マクロ経済の観点では、中国の成長鈍化が影響している。2025年の中国GDP成長率は5%前後と予測され、不動産危機や消費低迷が続く中、百貨店の高級品志向は限界を迎えつつある。 上海新世界大丸百貨の好業績は例外だが、全体業界の承圧下で、日系運営の継続はリスク増大を招く。コロナ禍の経験から、企業は柔軟性を重視し、固定投資を避ける傾向が強まった。

 加えて、サステナビリティの観点もある。中国市場の環境規制強化や、ESG投資の潮流で、日系企業は現地基準への適応を求められる。提携終了は、これらの変化に対応した戦略的撤退といえる。

提携終了の影響と今後の展望

 この提携終了は、中国百貨店業界に波及する。上海新世界新丸中心は、本土運営でイノベーションを推進し、デジタル統合やコミュニティ型空間を強化するだろう。一方、大丸松坂屋は、得たノウハウを国内店に活用し、グローバルブランドの強化を図る。日中ビジネスのモデルとして、提携の成功例となる可能性が高い。

 しかし、課題も残る。本土化が進む中国市場で、日系企業は新たな進出形態を模索する必要がある。完全撤退ではなく、eコマースやライセンス供与へのシフトが鍵だ。

 大丸松坂屋の上海新世界百貨店退出は、契約満了という表層的原因を超え、中国市場の構造変化、日系企業の戦略再編、経済環境の変動が複合的に絡む結果だ。これは、日中経済協力の成熟段階を示す一方で、グローバル化のリスクを浮き彫りにする。両社の友好関係維持が示すように、退出は新たな協力の始まりかもしれない。中国消費市場の未来を占う重要なケースとして、注目に値する。

(中国経済新聞)