山東省、業界特化型AIで製造業を高度化 現場主導の産業革新が加速

2026/10/15 19:30

中国有数の製造業集積地である山東省で、業界特化型の人工知能(AI)大規模モデルを活用し、製造業の高度化を進める動きが加速している。汎用AIモデルの開発競争を追うのではなく、港湾物流、鉱山の安全管理、鉄鋼生産、化学工業など、各産業の現場に特化したモデルの開発と実用化に力を入れている点が特徴だ。

山東省の大規模モデル関連事業の売上高は2025年に63億7,500万元(約1,504億円)に達し、前年比104.5%増となった。2026年上半期も59億6,000万元(約1,406億円)を記録しており、年間売上高は前年から倍増する見通しだ。なお、日本円への換算は1元=約23.6円として算出したもので、実際の金額は為替相場によって変動する。

秋の山東省青島市。山東港口集団傘下の青島港にあるばら積み貨物埠頭の自動化管制センターでは、AIを活用した港湾運営が進んでいる。担当者が画面を操作すると、船舶の運航スケジュールや停泊計画などの情報が統合され、AI大規模モデルが配船計画を自動作成する。画面上では各船舶の作業工程や作業ルートも確認でき、港湾業務の効率化につながっている。

従来、同港の配船計画では180以上の業務ルールと132の影響要因を人手で調整する必要があった。天候や通関手続きなどの事情で1隻の船の予定が変わると、計画全体を組み直さなければならないこともあり、作成には半日以上かかっていたという。AIの導入によって、こうした複雑な計画業務の負担が軽減されつつある。

山東省は近年、実体経済へのAI導入を進めるうえで、特定の産業や業務に特化した「業界特化型大規模モデル」を重点分野に位置付けてきた。関連政策を整備するとともに、重点普及対象として100のモデルを選定し、13の重点分野で導入を推進している。省内で重点的に動向を把握している大規模モデル関連企業は170社を超え、産業現場での活用が広がっている。

その背景には、山東省の企業が長年にわたって蓄積してきた生産データや技術ノウハウがある。海爾集団(ハイアール)系の産業インターネット企業、卡奥斯(COSMOPlat)は、4,700以上のモデルを活用し、設備の運転やパラメーター調整に関するノウハウを体系化して「天智大模型」に取り込んでいる。山東能源集団傘下の雲鼎科技は、鉱山の情報化に取り組んできた経験を生かし、石炭産業向けAI大規模モデルの訓練センターを整備した。山東鋼鉄集団傘下の山鼎雲科は、長年にわたる製鉄のノウハウを学習データに取り込み、冶金分野向けの「尚智」AI大規模モデルを開発している。また、浪潮集団(インスパー・グループ)は、化学工業に関する1,300種類以上の生産ノウハウを「海若大模型」に取り込み、産業分野への応用を進めている。

製造業の現場には、設備の運転条件、工程ごとの制約、原材料の配合、品質管理など、専門性の高い情報が蓄積されている。しかし、こうしたデータやノウハウは企業内部に分散していることが多く、汎用AIモデルだけでは個々の工場や生産工程の実情に十分対応できない。このため、企業固有のデータや業務知識を学習させた業界特化型モデルを活用し、現場での判断や作業を支援する取り組みが広がっている。

山東省のAI活用は、設備の異常検知や警告から、製造条件の最適化、さらには工場全体の工程連携へと発展している。山東能源集団傘下の興隆荘炭鉱では、460台以上のカメラと740系統以上の映像を鉱山向けAIモデルに接続し、設備の異常や作業員の規則違反をリアルタイムで検知している。異常が発生すると警報を発する仕組みで、記事によると検知精度は95%を超え、自動巡回点検の効率は3倍以上に向上した。従来の人手による監視を、AIによる継続的な異常検知と予防的な安全管理へと転換する事例となっている。

化学工業でも、AIによる工程最適化が進む。陝西省の延長石油では、丁醛や戊醛といった化学原料を分離する蒸留塔の運転に、卡奥斯の「天智大模型」を導入した。従来は担当者が温度、圧力、流量などを確認しながら手作業で条件を調整していたが、AIの活用により、現場データをリアルタイムで収集し、最適な運転パラメーターの算出を支援できるようになった。その結果、製品の精度は従来の2倍に向上したという。

産業向けAIを手掛ける創新奇智(AInnovation)は、世界有数のガラス繊維メーカーに対し、工業分野に特化した大規模モデルとAIエージェントを導入した。原料配合、窯炉での溶融、紡糸による繊維形成という3つの重要工程に専用モデルとAIエージェントを配置し、原料配合の提案や窯炉の調整支援、異常発生時の原因分析などを行っている。原料のばらつきが後工程に及ぼす影響を抑え、糸切れや設備停止のリスクを低減することで、生産の安定化につなげている。同社によると、生産現場のノウハウをモデルに蓄積することで、一部プロジェクトの納入期間は15カ月から5カ月に短縮された。

卡奥斯が構築した無人運転型の空気圧縮ステーションでは、6つのAIエージェントが連携し、巡回点検や運転制御、設備の最適化を行っている。現場の常駐要員は1人で済むようになり、人件費は70%削減され、エネルギー消費量も5%減少したという。AIの導入は、単に人手を減らすことだけを目的としているわけではない。定型的な作業を自動化することで、従業員を工程改善や製品開発など、より付加価値の高い業務に振り向けることも重要な狙いとなっている。

こうした取り組みを背景に、山東省で開発された大規模モデルの導入実績も拡大している。浪潮集団の「海若大模型」は、中国の業界特化型大規模モデル市場で2年連続のシェア首位となった。卡奥斯の「天智大模型」は世界の20の「灯台工場」で活用され、山東港口集団の「星港大模型」は埠頭の荷役効率を15%以上改善した。創新奇智の「奇智孔明大模型」も、中国国内の産業用大規模モデル応用市場でシェア首位となっている。

山東省では第三者評価を通過した大規模モデル製品が389件に達し、このうち51件が中国国家インターネット情報弁公室の生成AIサービス登録を完了した。産業用大規模モデルの全国上位50件にも省内から10件が選ばれ、選出数で全国首位となった。化学工業、鉄鋼、高級装備製造などの分野で、産業現場のニーズを起点にモデルを開発し、業界データを活用して改良を重ねる仕組みが形成されつつある。

産業AIの成長を支えているのが、山東省政府による政策支援だ。同省は2024年に「大規模モデル産業の高品質発展を加速するための指導意見」を策定し、産業応用の強化、重点分野の開拓、企業育成、産業チェーンの形成を柱とする方針を打ち出した。モデル開発に使える「モデル券」や、学習用データの整備を支援する「コーパス券」などの補助制度を導入し、毎年30件の優れた革新的モデル製品を選定して財政支援を行っている。また、大規模モデル分野の重要技術開発プロジェクトを170件以上推進し、そのうち22件が国家レベルの重点技術課題に選ばれた。

データ基盤の整備も重要な政策課題となっている。大規模モデルの開発では、学習に使うデータの質と量が性能を左右する。山東省は2025年から重点産業の学習用データベースの整備を進め、これまでに35の重点産業向けデータベースを構築した。製造業の31業種すべてをカバーしており、企業が単独で整備することが難しい専門性の高いデータを、産業全体で活用できる環境づくりを進めている。

さらに、実際の生産現場をAI開発の実証の場として活用する取り組みも広がっている。青島市に本社を置く極視角科技は、山東港口、海爾集団、青島地下鉄などとの連携を通じて実証機会を確保し、1,500種類以上のアルゴリズムと100億件超の実際の業務データを蓄積した。企業が実際の現場でモデルを検証し、得られたデータを再びモデルの改善に活用することで、産業向けAIの実用性を高めている。

業界特化型モデルの普及は、AI企業の事業構造にも変化をもたらしている。雲鼎科技は鉱山分野で培ったソリューションを他の6業種に展開し、中国15省に事業を広げている。浪潮集団の「海若大模型」を活用した行政サービスは245の省・市級政府に導入され、山鼎雲科はポーランドやインドなど10カ国以上に製品を展開している。AI企業は、モデルやソフトウェアを提供するだけでなく、各産業の業務課題を把握し、導入から運用までを支援するソリューション企業へと事業領域を広げている。

山東省の強みは、製造業の裾野の広さに加え、長年にわたって蓄積してきた生産データや産業用インターネットの運用経験にある。現場の課題を起点にモデルを開発し、実際の生産データを活用して改良を重ねることで、AI技術の実用化につなげている。汎用AIの開発競争が激化するなか、モデルの規模や計算能力だけでなく、生産効率、安全性、品質、エネルギー消費、導入期間などの具体的な成果を重視する姿勢が、山東省の産業AI戦略の特徴となっている。

山東省は今後、第15次五カ年計画期(2026~2030年)のAI産業発展目標を見据え、現場のニーズに即したモデル製品の発掘と育成を続ける方針だ。2028年までに、地域の産業特性を生かし、幅広い業種をカバーする業界特化型大規模モデルの体系をおおむね構築するとともに、「AI+製造業」の戦略的かつ高付加価値な活用事例を複数創出することを目指している。

製造現場に蓄積された知識とデータをAIに取り込み、産業ごとの課題解決につなげる山東省の取り組みは、中国におけるAIと実体経済の融合を示す事例として注目される。

(中国経済新聞)