中国の協働ロボットメーカー、艾利特机器人(エリートロボット)は、2026年10月12日から16日まで上海の国家会展中心(上海)で開催される第26回中国国際工業博覧会(CIIF 2026)に出展した。「一脳多形・智鏈無界(一つの脳、多様な形態・知能の連鎖に境界なし)」をテーマに、8.1H館のF008ブースで、具身知能(エンボディドAI)の技術検証から大規模な産業実装へと進む同社の戦略と成果を紹介した。
2026年は、具身知能産業が実証段階から本格的な商用導入へ移行する節目の年と位置付けられている。競争力を左右する要素も、複雑な動作の実演や個々のロボットの性能から、実際の生産ラインで安定的かつ再現性のある生産性を発揮し、複数の現場へ展開できる能力へと移りつつある。

こうした変化を背景に、エリートロボットは、自社開発の産業用具身知能基盤モデル「元啓Primo」を中核に据え、協働ロボット、複合ロボット、車輪型ヒューマノイドロボットの3つの製品群を連携させる。光通信インフラ向け精密製造、スマート端末の柔軟組立、バイオ医薬品分野の実験室自動化など、高付加価値領域での導入を進め、実際の現場で知能を検証し、データの循環を通じて技術を継続的に改善する事業モデルの構築を目指す。
■ 具身知能の競争軸は「人間らしさ」から「現場で働く能力」へ
エリートロボットが掲げる基本的な考え方は、具身知能の大規模普及を阻む最大の課題は、ロボット本体の形状ではなく、知能の汎化能力と異なる作業への転用能力にあるというものだ。
同社は創業当初から「一脳多形」を中核戦略としてきた。これは、さまざまな形態のロボットを開発するだけでなく、共通の知能基盤を複数のロボットに適用し、それぞれの現場や作業に応じて能力を発揮させることを意味する。
「一脳」は、マルチモーダル知覚、タスク理解、汎用的な把持、自適応制御、複数ロボットの協調動作などを担う統一的な知能基盤を指す。一方、「多形」は、協働ロボット、複合ロボット、車輪型ヒューマノイドロボットなど、用途に応じた異なる機体形態を指す。
このアーキテクチャーにより、ロボットをあらかじめ定められたプログラムを実行する専用設備から、周囲の環境を認識し、作業を計画し、状況に応じて行動する具身知能エージェントへと進化させることを目指す。

同社によると、統一された知能基盤を導入することで、企業が工程ごとに異なる制御システムやシステム統合環境を構築する負担を軽減できる。精密組立、エリアをまたぐ搬送、器用さが求められる操作など、異なる工程間の連携を容易にし、導入効率の向上とシステム構築コストの低減につなげる考えだ。
■ 自社開発の「元啓Primo」が多様なロボットの知能を統合
この戦略を支える中核技術が、エリートロボットの自社開発による産業用具身知能基盤モデル「元啓Primo」だ。
同モデルは、マルチモーダル知覚、世界モデル、強化学習、エンドツーエンドの意思決定機能を組み合わせ、知覚、意思決定・計画、空間理解の各領域をカバーする。ロボットが「認識・理解・計画・実行」という一連のプロセスを通じて、動的で複雑な環境や、事前に完全には構造化されていない現場にも対応できるようにする。
また、リアルタイムのトルク情報の知覚と最適化戦略を取り入れることで、抽象的な指示を理解するだけでなく、対象物の硬さや柔らかさ、接触時の力の変化など、物理世界の特性を考慮した操作を実現するという。
これにより、サブミリメートル級の精密組立から、動きの速い対象物を扱う柔軟な搬送まで、異なる作業に知能を応用することを目指す。共通の知能基盤を複数の機体に展開することで、ロボットごとに知能を個別開発する必要性を減らし、異なる用途への適応と技術の再利用を促進する。
エリートロボットは、コア部品からロボット本体、ソフトウェアプラットフォームまでを一貫して開発する技術体制を整備。協働ロボット、複合ロボット、車輪型ヒューマノイドロボットの3つの製品群を、共通の知能基盤のもとで連携・進化させている。

今回の展示テーマ「一脳多形・智鏈無界」は、この戦略を包括的に表現したものだ。「一脳」は統一された知能基盤、「多形」は用途に応じた機体形態の選択肢、「智鏈」はデータ・意思決定・実行を結ぶプロセスの再構築を表し、「無界」は産業分野の垣根を越えた応用とエコシステムの共創を意味する。
同社が目指すのは、個々のロボットの性能を競う段階から、知能基盤、データ循環、複数機体の協調、パートナーとの連携を含む総合的な競争力を確立することだ。
■ AIのバリューチェーンに沿って高付加価値分野への導入を拡大
具身知能の実用価値は、実際の生産現場や研究施設で成果を生み出せるかどうかによって決まる。エリートロボットは、「AI Infra」「AI Terminal」「AI for Science」の3分野を重点領域とし、精密製造から柔軟組立、科学研究の自動化まで、AI産業のバリューチェーンに沿った導入を進めている。
AI Infra:光通信インフラの精密製造
AIインフラ分野では、同社は光通信インフラ関連の製造領域で量産を実現した先行企業の一社と位置付けている。光モジュールの製造工程において、部品、プリント基板(PCB)からパッケージング、封止・検査に至るまで、幅広い工程を対象とする。
高精度な作業が求められる製造工程に具身知能を導入することで、精密操作への対応と生産工程の自動化を進める。
AI Terminal:スマート端末の柔軟組立
スマート端末分野では、消費者向け電子機器の大手メーカーと連携し、数十の作業シーンで導入を進めている。精密組立や柔軟な検査を含むソリューションは、いわゆる「果鎖」と呼ばれるApple関連サプライチェーンの生産ラインにも導入されているという。
製品の多様化や生産条件の変化に対応しながら、高精度な組立と検査を実現することが、この領域における重要なテーマとなる。
AI for Science:研究・実験室の自動化
科学研究分野では、高スループットの化合物スクリーニングや微生物の画線接種など、実験室の自動化領域に取り組む。

複合ロボットを活用し、危険性が高い作業や反復性の高い作業を自動化することで、研究者の作業負担を軽減し、実験プロセスの効率化を目指す。
これら3分野は、それぞれ異なる技術的要件を持つ一方、共通の知能基盤を活用することで、具身知能の応用範囲を製造業から研究開発まで広げる取り組みとして位置付けられる。
■ 技術実証からシステム導入へ、産業実装を加速
今回の中国国際工業博覧会でエリートロボットが打ち出したのは、単一製品の性能やデモンストレーションにとどまらない、統一された知能基盤を中心とする具身知能の実装戦略だ。
共通の知能を複数のロボット形態に展開し、現場で得られたデータを技術改善へとつなげる。さらに、複数機体の協調と産業パートナーとの連携を通じて、個別工程の自動化から、複数工程を横断するシステム全体の最適化へと進むことを目指している。
具身知能の競争が、機体性能や単発の実演から、知能基盤の汎用性、実環境での安定稼働、データ循環、システム統合能力へと移行するなか、同社は「一脳多形」を軸に、精密製造、スマート端末、科学研究という高付加価値分野での展開を加速する。
具身知能の次のステージは、人間に似たロボットをつくることだけではない。実際の現場で確実に働き、多様な作業に適応し、産業の生産性向上に貢献できるロボットを実現することだ。 エリートロボットは、統一された知能基盤と多様な機体形態の融合を通じて、その実現を目指している。
(中国経済新聞)
