年の瀬に寄せて:中国が日本を侵略する可能性は

2022/12/31 20:03

日本政府は、向こう5年間の防衛経費を43兆円に増額するという。GDPに占める割合はイギリスやフランスとほぼ同じ2%に達する。

この43兆円という軍拡計画が実現すれば、日本の軍事力はインドを抜き、アメリカ、中国、ロシアに次ぐ世界4位となる。

日本政府が軍拡にこだわる理由は果たして何か。

岸田首相によると、「日本は二つの脅威に見舞われている。一つは中国からの脅威、もう一つは北朝鮮からの脅威だ。この二つの脅威があるので、敵軍へ『先制攻撃』をするための長射程ミサイルの購入なども含め、軍備を拡張する」とのことである。

そこで、中国は日本を侵略するのか、との問題が出てくる。

中国が日本を攻める理由はまるで見当たらない。釣魚島(尖閣諸島)をめぐるトラブルがあるにしても小さな衝突であって、日本全体に及ぶものではない。

中日両国で戦争になり得るもう一つの理由は、台湾問題である。

安倍元首相は以前、「台湾の有事は日本の有事であり、日米同盟の有事でもある」と語っていた。この言葉は、一見問題ないようにも見えるが、よくよく考えると台湾の有事が日本に直接関わるのか、との疑念がわく。日本と台湾は同盟国でもないし、外交関係もないので、台湾との同化にこだわる必要もないのであるが。

台湾の有事が日本の安全を脅かすとのいうのであれば、日本政府がすべきことは、その脅威を解消するために中国政府と台湾当局に和解を促し、統一への道を探るよう働きかけて戦争を防ぐことであって、中国との戦いに備えて台湾の味方をすることではない。

加えると、アメリカの同盟国である故に台湾の有事の際にアメリカ軍を支援する必要があるのであれば、戦争に巻き込まれないようにするため、対立をせずに対話により東アジアの緊張情勢を緩和するよう米中双方に説得するべきなのである。

すなわち、悲惨な戦争を経験して平和を求めている日本は、米中両国や中国と台湾の間で平和の使者となり、対抗せずに平和的に対立を解き、台湾海峡の平和を探るよう説得する資格を十分に備えている。

ただし、今の日本はまるでその逆を行っており、仲立ち役どころか台湾の「守り神」になろうとしている。

数日前、与党・自民党の党三役として19年ぶりに台湾を訪れた萩生田政調会長は、蔡英文総統との会談で、「台湾とともに台湾海峡の平和を守らなくてはいけない」という驚きの言葉を発した。法的根拠のない言い方で、これでは自衛隊が台湾軍とともに台湾海峡で中国の人民解放軍と戦うというようなものである。日本は台湾海峡を挟んで戦争に加わる必要などないのだ。

岸田内閣が台湾の有事や北朝鮮のミサイルを名目に軍拡を狙い、平和を目指す憲法で言う「専守防衛」との原則を改め、軍事大国への返り咲きを目指し、それを国民が支持するのであれば、もはや言葉も出ない。ただしこの軍拡に向けて5年間で43兆円をつぎ込むとなると、国民すべてが政治家の野望のために血税を注がなければならず、つまりは兵器を購入するために国民が自腹を切ることになる。これは合理的かつ必要なことなのだろうか。それだけのお金があるなら、「少子高齢化」の対応に費やした方が、国の成長や繁栄につながっていくのではないか。

国民全員の命や財産に関わることが、当事者(国民)をスルーして政府が独断で決定すること自体、荒っぽい手段なのではないか。

ことし1年の世相を漢字ひと文字で表す「今年の漢字」に「戦」が選ばれた。京都にある清水寺の森清範貫主がこの字を揮毫したのち、「2023年は戦争のない、みんなが心安らかに日々を送るようになって欲しい」と述べた。

ヤフーのアンケートによると、防衛費の増額に反対する人が79%に達している。民主国家の政府は国民の声に耳を傾けるべきであり、与党や内閣が我を通すようでは独裁政権になってしまう。

年の瀬にこのような考えを書き残した理由は、日本が軍拡に取り組むことで、東アジアの緊張情勢が緩和するどころか火に油が注がれ、中国からも戦争の相手と見なされて、中日関係も緩和せず緊張感を増していくような事態に陥ることが心配だからである。

(文:徐静波)

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【筆者】徐静波、中国浙江省生まれ。1992年来日、東海大学大学院に留学。2000年、アジア通信社を設立。翌年、「中国経済新聞」を創刊。2009年、中国語ニュースサイト「日本新聞網」を創刊。1997年から連続23年間、中国共産党全国大会、全人代を取材。中国第十三回全国政治協商会議特別招聘代表。2020年、日本政府から感謝状を贈られた。

 講演暦:経団連、日本商工会議所など。著書『株式会社中華人民共和国』、『2023年の中国』、『静観日本』、『日本人の活法』など。訳書『一勝九敗』(柳井正氏著)など多数。

 日本記者クラブ会員。