ハーバード卒の才媛が世界の屋根で16年間奮戦、高原のぜいたく品を編み出す

2022/10/15 22:30

2006年、当時20代だった中国人女性の喬(Qiao)さんは、キャリーバッグ一つ抱えてハーバード大学を、そしてウォールストリートを後にした。

はるかかなたの高原の地で数奇な人生を送ることになるとは、まるで想像しなかっただろう。

成長して初めてとなる中国への帰国で雲南省の辺境地へ行き、「永続する形での貧困問題への取り組み」といった課題をめぐって、ハーバード大学MPA時代の友人と視察を行った。(注:MPAとは貧困問題に関する学科で、ビジネス式に利益を得た上で社会的弱者の救済を求めるものである)

雲南省の美しい草原や広大なチベット高原にわくわくした喬さんであったが、それとまるで対照的だったのがチベット農牧民の苦心惨憺な暮らしぶりであった。長い冬場は常に猛吹雪に襲われる。6、7、8の3か月のみという暖かく貴重な夏場、女性たちは毎朝3時に起き、ヤクの世話に勤しむという単調でつらい1日を過ごす。乳を搾り、バターを作り、放牧し、糞を拾う。適齢に達した牛やヒツジを毎年数頭売り出すことで生計を立てているのだった。

風雨にむしばまれた顔に浮かぶ純朴な笑顔を見た喬さんは、ありったけの知識で支えてあげたい、心からそう思った。

草や水を求め、天候任せに生きる遊牧民にとって、ヤクは唯一の財産であった。

ビジネスに長けている喬さんは、ヤクの身にまとわれた貴重な毛並みに目を向け始めた。彼女は以前の細かい調査や視察を通して、ヤクは海抜3000-6000メートルの高原地帯に生息し、氷河の融水を飲み、冬場の吹雪でも歩みを止めないという寒さに強い動物である、産毛は太いが根元では細くて濃く、初冬に伸び始めて極寒の地で身を守るのに役立ち、翌年に脱け落ちるものということを知っていた。。

ヤクの毛はまた、ヒツジの毛に比べて保温性が約30%高く、通気性は約1.6X倍とのデータがある。「やわらかな金」と言われるカシミヤに引けをとらず、抜群の市場価値を誇る。その上、全世界のヤクの9割以上がチベット高原に生息していながら、PRや普及が遅れているので、外国のデザイナーはその毛がどういった素材なのかまるで知らない。

さらにその毛は、自然分解されるので極めて環境にやさしいものである。地味なチベット人がこうした事実を知らないのは実に勿体ないことだった。

行動派である喬さんは、ただちにハーバードへ基金の設立を求めた。そして数多くの遊牧民とともに無名だったヤクの毛を「ぜいたく品」とすべく、特製のブランド「Shokay」(ヤクの音訳)を立ち上げた。

世界金融の中心地ウォールストリートから無人地帯の青海高原へ。この行動は家族でさえ理解できなかったが、細身の彼女は「ウォールストリートはお金持ちにお金を稼がせるだけ。でもあそこへ行けば多くの人を苦しみから救い出せる」とかたくなに主張した。

Shokayは、1グラム分でも原産地がわかるように、ヤクの毛を青海省、チベット自治区、四川省のチベット遊牧民から直に買い入れた。

毛を集める時期である5月~8月、手作業により年に1度の毛刈りが行われる。成長したヤク1頭の首の部分にあるおよそ100グラムのソフトな毛は、とりわけ貴重なため毛刈りも慎重に行わなければならない。ヤクを傷つけず、また次の冬に再び生えてくるように、素手または特製のくしで毛を一つ一つとかしていく。

喬さんは每年この季節になると、毛の採取や仕分けを教えたり管理を行う専門家を現地に派遣する。刈り取った毛はA、B、Cの3つにランク分けするという具合に、厳しい品質管理策を講じている。首まわりの細毛は、太さ18~20ミリミクロン、長さは24~36ミリメートルという範囲内に限定した。これがぴったりフィットのセーターに使われるAランクである。1着ごとに品質を確保し安定させるためである。

1トン分の毛を洗浄するには50人がかりで8か月を要する。4000本以上の毛を1本1本、手作業で少しのミスもなく機械に通していく。マフラー1本作るのに30頭分の毛が必要である。

Shokayはまた、モノトーンだった毛にカラリング技術を編み出して100種類以上のカラーを作り上げ、いろどり豊かなものにした。タレントやデザイナー、ファッションブロガーに高く評価されている。

粗末なテントを繕うことしかできなかった遊牧民が、検査をし、毛編みをし、アイロンがけを覚え、知られざる存在だったヤクの毛を高原のぜいたく品に仕立てようとしている。

Shokayは、チベットの人たちに少しでも収入をもたらそうと、マージンを抑えている。喬さんチームの努力によって、この事業にかかわる2600名の青海高原に住む人々の収入が大幅に増えた。

現在、Shokay の製品は台湾、香港、日本、アメリカ、ヨーロッパに輸出されており、世界中に 100 を超える店舗がある。

(中国経済新聞)