60代の夫婦が定年後に車で全国を駆け巡る 

2022/08/26 11:00

薛さんの自宅の居間の壁には、中国の地図が掛けられている。赤と青の星印は、彼と妻が訪れた場所で、その星印は中国地図の至る所に貼られている。

北は黒竜江省の漠河市、南は海南省の三亜市、西は新疆のクンジュラブ、東は山東省の威海市……退職後、薛さん夫婦は17万キロ以上を運転し全国を巡る「第2の人生」をスタートさせた。

年齢にとらわれず、常に前進を続ける二人。

ここ数年、薛さん夫妻の日常は、旅路を行く「道」の上だ。

2005年、薛さん夫婦が初めて車で出かけたのは、中国浙江省杭州市にある千島湖だった。以前、ノートの付録に千島湖の鳥瞰図が載っており、あまりにも美しくて、いつかは見てみたいと思っていたのが、きっかけだった。この年、二人は新車を購入し、『中国高速道路と都市・農村道路マップ』を手に、途中の景色を楽しみながら南下していった。

若い頃は、仕事や子供の世話で旅行に行く時間がなかったが、二人とも外に出るのが好きで、いつかは自家用車で旅ができたらいいなと思っていた。

2015年には、愛車を完全装備の「小さな家」に改造し、正式に車での旅をスタートさせた。

車内は狭いが、コンロやダイニングテーブル、洋服掛けなどがあり、運転席の後部座席を倒せばマットがダブルベッドに様変わりするなど、空間をうまく使い、衣食住の全てを賄うことができる。

  チベット高原

この車で、済南市から南下して武漢市へ、武漢市から西へ国道318号線でチベットへ、雲南省、貴州省、湖南省を経て、最終的に済南市へ戻ってきた。途中、国道を走ることが多かったが、道中、美しい景色を見るたびに、好きな場所を探しては立ち寄って景色を楽しんでいたという。

旅の途中には、多くの親切な人たちとの出会いがあったと二人は振り返る。旅行中、最も苦労したのが、駐車場と水の問題だった。食事と宿泊は車でできるが、訪れる先々で水を用意しなければならず、珠海市に向かう途中、夜9時になってからキャンプを張ろうと、ある家のドアをノックしたところ、その家の主人は、二人が車での移動で水を必要としていることを知り、体が洗えるようにお湯を用意してくれた。

また、人里離れた場所に駐車するのは危険なので、薛さんはいつも里山の民家を見つけては、その家の庭に車を停めさせてもらっていた。ある日、二人が江西省に向かう途中、国道を走っていたが長い時間、集落だけでなく家の明かりすら見えない。やっとのことで道端に一軒の民家を見つけ、持ち主の許可を得て、中庭の横に車を止めることができた。ちょうどその時、二人は「鮒豆腐」を作っていたので、民家に住む夫婦へ感謝の気持ちを込めて、特別に鮒をプレゼントした。だが驚くことに、その夫婦は、二人を自宅に招き特別に料理を作ってくれてた。10月の少し冷え込んだ夜の思い出は、今でも二人の心に残っているそうだ。

その他にも、二人が2度目の新疆旅行へ行く途中、同じく新疆へ向かっている数人に出会った。その中には、初めて新疆に行く人もいて、道に慣れていなこともあり、二人が先導した。この時出会った人達とは、今でも仲が良く、年末年始には、お互いの家を訪れ、年に一度は皆んなで集まっている。

インタビューの最後で「機会がある限り、私たちは走り続ける」と薛さんは力強く語った。旅への熱い思いによって、これからも二人は決して立ち止まることはないだろう。体力と能力と条件が許す限り、高齢者も自分の好きなライフスタイルを選ぶことが人生をより充実させるのだと二人が証明してくれているようだ。

(中国経済新聞)